中国では「最悪のシナリオ」に向けた準備が着々と進んでいる

また、中国軍高官は、全人代で米国との対決を想定した準備を促したとされている。全人代会議録によると、制服組トップの許其亮・中央軍事委副主席は「既存の覇権国と新興国が衝突する『トゥキディデスのわな』に直面しており、軍は能力向上を強化する必要がある」と指摘したようである。また、魏鳳和国務委員兼国防相は「米中対立が長期化する」との予想を示したようである。このように、中国では「最悪のシナリオ」に向けた準備が着々と進んでいるのである。

「トゥキディデスのわな」とは、米国の政治学者グレアム・アリソンが提唱した概念である。一般的に、急速に台頭する大国が既成の支配的な大国とライバル関係に発展する際に、それぞれの立場を巡って摩擦が起こり、当初はお互いに望まない直接的な抗争に及ぶ様子を表現した言葉であるとされている。

現在では、国際社会のトップにいる国はその地位を守るために現状維持を望み、台頭する国はトップにいる国につぶされることを懸念し、既存の国際ルールを自分に都合が良いように変えようとするパワー・ゲームの中で、軍事的な争いに発展しがちな現象を指すようである。

具体的には、15年にオバマ大統領が米国で開催した米中首脳会談において、南シナ海などで急速な軍拡を進める中国の習近平国家主席との話で用いられたとされている。オバマ大統領は、「一線を越えてしまった場合はもはや後戻りをすることは困難になる」という牽制の意味合いで使用したとされている。

最大のリスクが起こったとき、金は必須の保有資産になる

このように、トランプ前政権で貿易戦争に発展した米中関係は、いまや経済的な争いではなく、軍事的な覇権争いに発展しようとしている。これは今後数年間の最大のテーマになると思われる。1940年代後半から1950年までの戦争時に、米政府債務と実質金利がどのような動きになったかをいまのうちに理解しておいたほうがよいだろう。

中国の習近平氏は、すでに軍事体制の強化を指示している。すでに世界はその方向に進んでいる可能性がある。想定外のことが起きるのは世の常である。筆者は、一般的に想定外とされるシナリオも念頭に置きながら将来の戦略を考えるようにしているが、このような事象が示現すれば、金は保有すべき資産の必須アイテムにならざるを得ないだろう。

最大のリスクを念頭に置いておくことが、資産運用ではもっとも重要である。このシナリオの実現性はともかく、実現した場合のきわめて大きなリスクに備え、いまから金をしっかりと保有しておきたいと考えている。