1兆9000億ドル規模の米追加経済対策は将来のインフレにつながる

一方、11日にバイデン大統領が署名して成立した、新型コロナウイルス危機に対応する1兆9000億ドル規模の米追加経済対策は、将来のインフレにつながる可能性がある。国際通貨基金(IMF)は、追加対策が発動されれば、米国のGDPが今後3年で計5-6%押し上げられると分析している。米コロナ経済対策は累計で約6兆ドルと、GDPの3割に迫る異例の規模となっている。

イエレン米財務長官は、追加経済対策により「来年にコロナ危機前の完全雇用状態に戻る」と予想している。また、同氏は、追加経済対策は「米景気が力強く回復するための燃料」としている。さらに、巨額財政出動が景気過熱を招き、インフレが加速する恐れがあると一部の声に対し、同氏は否定した上で、「インフレ気味になったと判明しても対処手段がある」と反論している。バイデン政権は景気回復の足取りがより確実になるまで、財政悪化を棚上げし、対策を緩めることはないだろう。

米議会予算局(CBO)は、長期財政見通しで、連邦政府債務のGDP比が21年度の102%から30年後の51年度には202%へと2倍に膨張すると試算している。新型コロナウイルス危機を受けた一連の経済対策で財政赤字が急拡大しているが、社会保障費を賄う財政支出が増え続けることで債務も積み上がる。

試算には1兆9000億ドル規模の追加経済対策を考慮していないため、今後の財政悪化はさらに拡大することになる。公的債務のGDP比は21年度の102%から31年度には107%と、CBOは、これまで最悪だった終戦直後の1946年度の106%を超えると予想している。

戦後のインフレが再来すれば金価格が暴騰する

ここでポイントになるのが、戦後の財政悪化である。戦後のインフレ率は20%に達し、名目金利からインフレ率を引いた実質はマイナス15%を超える水準に達した。このような状況では、現金の価値が大きく目減りすることになる。逆に実物資産の価値は相対的に高くなる。これ以上の説明はいらないだろう。

つまり、今後戦争状態あるいはそれに近い状態になり、インフレ率が高まったときには、実質金利が低下し、金価格が暴騰する可能性があるということである。しかし、そのような状況になる可能性はあるのだろうか。

そこで筆者が注目したのは、中国の第13期全国人民代表大会(全人代)第4回会議での、習近平国家主席(中央軍事委員会主席)の発言である。習氏は軍分科会に出席し、「目下、わが国の安全保障状況は不安定で不確実性が大きい」と発言して、「複雑で困難な局面への準備」を指示したと報じられている。米中対立に関する習氏の発言は伝えられていないが、バイデン政権発足後も米国との軍事的緊張が続いていることを念頭に置いたとみられている。