<米カリフォルニア州北部ストックトン市では、毎月500ドルを24カ月間支給する米国初の社会実験が2019年2月に開始されている……:松岡由希子>
ベーシックインカム
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米カリフォルニア州北部に位置する人口31万人超のストックトン市では、マイケル・タブス前市長のもと、市民125名を対象に毎月500ドル(約5万4000円)を24カ月間支給する米国初の社会実験が2019年2月に開始されている。

「18歳以上のストックトン市在住者で、世帯収入が中央値の4万6033ドル(約497万円)以下」という条件を満たす市民から受給者を無作為に選出。受給者の69%が女性で、平均年齢は45歳、子どものいる世帯が48%を占めている。なお、この社会実験の資金は、フェイスブックの共同創業者クリス・ヒューズ氏らの個人寄付によってまかなわれた。

受給者のフルタイム労働の割合は大幅に増加した

テネシー大学のシテイシア・ウェスト准教授とペンシルベニア大学のエイミー・カストロ・ベーカー准教授は、2019年2月から2020年2月までの初年度のデータをまとめた予備調査結果報告書を発表した。

これによると、受給者におけるフルタイム労働者の割合が2019年2月時点の28%から1年後には40%まで大幅に増加した一方、非受給者でのフルタイム労働者の割合は2019年2月時点の32%から1年後には5%増の37%にとどまった。

受給者は、毎月500ドルの追加収入を得ることで、よりよい給与を求めてパートタイムの仕事からフルタイムの仕事へと転職に向けた活動がしやすくなったり、失業中、交通費など、求職活動に必要な資金をまかなうことができ、就職につながりやすくなったとみられる。

受給者のうち借金を清算した割合は2019年2月時点の52%から1年後には62%に増加。不意の出費を貯金でまかなえる割合も2019年2月時点の25%から1年後には52%に増加した。一定の収入が毎月得られることで、受給者の経済状況がより安定したことがうかがえる。

受給者は、抑うつや不安が少なくなり、健康状態も向上した。受給者のケスラーの心理的苦痛測定指標(K-10)の平均値は、実験開始当初の「軽度のメンタルヘルス障害」から1年後には「精神的に健康」へと改善している。

タバコや酒類の購入に使われた割合は1%未満だった

この実験では、毎月、デビットカードを通じて500ドルを支給し、その使途を追跡した。食費に充てる割合が最も多く、約4割を占めたほか、日用品や衣料品の購入、光熱費、交通費に使われていた。また、タバコや酒類の購入に使われた割合は1%未満であった。

この社会実験を推進したマイケル・タブス前市長は2020年の市長選で敗北したものの、米国では、ユニバーサルベーシックインカム(UBI:基礎所得保障)の概念を推進する動きが活発になっている。コロナ禍の2020年6月には、ユニバーサルベーシックインカムを推進する米国の市長が「所得保障制度のための市長連合(MGI)」を結成し、約40の市が参加。

また、2020年アメリカ大統領選に民主党から出馬したアンドリュー・ヤン氏は、最大規模のベーシックインカムの導入を政策に掲げ、2021年6月のニューヨーク市長選への出馬を表明している。

当記事は「ニューズウィーク日本版」(CCCメディアハウス)からの転載記事です。元記事はこちら
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