「地元を盛り上げる」は漠然とした言葉

——市民クラブは、地域でどのような役割を果たすべきなのでしょうか?

私はJリーグ57クラブの経営者のなかで、もっともサポーターとふれ合っていると自負しています。コロナ以前からサポーターに「地元を盛り上げてください」「地域に還元してください」とお願いされます。

「地元を盛り上げてください」も「地域に還元してください」も漠然とした言葉です。具体的にどうすればいいのか。市民クラブにはなにが求められているのか。ずっと考えてきました。

水戸ホーリーホックの小島耕社長
撮影=プレジデントオンライン編集部
水戸ホーリーホックの小島耕社長

Jリーグでは、アウェーツーリズムが盛んです。コロナ禍で見送られていましたが、昨年は10月18日のアルビレックス新潟とのゲームから、アウェーのお客さまを受け入れることができました。アルビレックス新潟さんのサポーターは熱心で、400人以上が応援に水戸まで来てくれました。その多くが市内のホテルに泊まるので、町はにぎわいました。そんな様子を見ていると、コロナで疲弊した町に少しですが経済的貢献できた、と感じました。

高い年俸を払えないかわりに、選手教育で差別化

コロナが収束すれば、時に1000人以上の相手チームのサポーターが水戸のホテルに宿泊するはずです。そして試合の翌日には偕楽園や千波湖、大洗、笠間などの観光地へ足を運ぶでしょう。こうして経済効果を生み出していくのも、地域に密着するプロスポーツチームならではの地域貢献なんだと改めて思いました。

——水戸ホーリーホックの売上は、J2の22クラブ中、20位(2020年度)ですよね。もともと資金面で劣るなか、選手獲得ではどんな工夫をしているのでしょう。

選手は個人事業主なので、より高い年俸を提示してくれるクラブを選びます。ユース世代の選手を獲得しようにも、茨城県内で能力が高い選手は鹿島アントラーズに、常磐線沿線に暮らしていれば、柏レイソルに行ってしまうかもしれない。

金銭面の争いで勝てないなか、3年前から取り組みはじめたのが「Make Value Project」と名付けた独自の選手教育プログラムです。週1回、外部から講師を招き、「スポーツビジネスと地方創生」や「効果的なトレーニングと遺伝子の関係」「医療とサッカーの共通点」「社会人として必要な基礎知識」など、多様なテーマで講義を続けています。ときには私も登壇して講義を行います。