「商業主義だ」と批判されても、ブレなかった理由

無料招待チケットを配っていた時期は、試合に飽きた子どもたちが通路を走り回ったり、ゲームで遊んだりしていました。それが現在、有料入場者の割合が平均で8割を超すようになり、お客さんが試合に集中し、選手のプレーに注目して勝敗に一喜一憂するようになりました。

私たちは、お客さんにクラブにお金を使ってもらって、ホーリーホックを支える当事者になってほしいと考えているんです。私の着任後、まず力を入れたのがスポンサー企業以外にも5万円、10万円、20万円を出資してもらう「サポートカンパニー」という仕組みです。出資金の多寡にかかわらず、主体的に応援してもらう仕組みをつくったのです。

だって、100円でも馬券を買えば、レース結果が気になるでしょう。だから水戸ホーリーホックに5万円でも出資すれば、勝敗だけでなく、使い道もチェックするようになるはずです。

そうした施策は、SNSなどで批判もされました。新しい社長は「お金、お金と言い出した。商業主義だ」と。しかし現状に満足せず、本気でJ1昇格を目指すなら、クラブ経営の体質やフロントの意識だけでなく、ファンサポーター、地域の方の意識も変えていく必要があります。

コロナ禍では身の丈に合った経営を続けることが重要

もしもスタジアムや喫茶店で、私を見かけたらどんどん要望を伝えてほしい。ホームページやSNSからでもかまいません。地元の思いをすくい上げ、クラブを成長させる。そして、サポーターとクラブが一緒になって、ホームタウンに新しい原風景をつくり出す。それが、責任企業を持たない市民クラブのあり方だと考えています。

水戸ホーリーホックが本拠地とするケーズデンキスタジアム水戸
写真=MITOHOLLYHOCK
水戸ホーリーホックが本拠地とするケーズデンキスタジアム水戸

——新型コロナウイルスの影響は受けましたか?

受けました。コロナが発生する前までは、観客数も、グッズやユニホームの売り上げも順調に伸びていたんです。2019年シーズンは過去最高の7位。実績のある選手を獲得し、フロントも増員。当初の売り上げ目標は、前年度の120%の約9億円。この調子なら、10億円にも届くではないという手応えを感じていました。

そんな状況は一変しました。入場料が激減。2020年1月の決算では約5500万円の赤字になる見込みです。

私は2020年7月16日に社長に就任しました。クラブを存続させるため、私は新社長の最初の仕事として資金調達に走り回りました。幸い多くの地元企業から約2億円の資金を調達でき、存亡の危機は脱しました。

これから全国の57クラブの多くは経営規模を縮小せざるをえないでしょう。選手の人件費を大幅にカットするクラブが増えるはずです。責任企業があれば、そこに頼れるかもしれません。でも、われわれは市民クラブです。その分、身の丈に合った経営を続けることが重要だと思います。