1億円を稼げるチャンスがある職業はほとんどない

——小島さんはどんなことを選手に伝えるのですか?

たとえば日本人の平均給与について話します。去年発表された国税庁の民間給与実態調査によると、日本人の平均年収は436万円です。サポーターはそこから、チケットやユニホームを買って応援してくれているんだよ、と。

2021年10月4日の「Make Value Project」の様子。小島社長が「クラブ経営」について話した。
写真=MITOHOLLYHOCK
2020年10月4日の「Make Value Project」の様子。小島社長が「クラブ経営」について話した。

では、君たちはどうか。仮に、いまは年俸600万円だとしても、活躍次第で2000万円、5000万円、1億円だって稼げるチャンスがある。そんな職業はほとんどない。だからこそ、いまを大切にする必要がある、と伝えます。

東大の新入生は年間約3000人。一方、Jリーガーになれるのは年間約160人です。彼らはそれだけ選ばれた存在なのですが、ごく一部の例外を除けば、Jリーガーの身体能力に大差はありません。事実「Make Value Project」を通して意識を少し変えたり、トレーニングを工夫したりしただけで、劇的に伸びる選手もいるのです。

「誰のおかげでサッカーを続けられているのか」を考える

うちのようなJ2のクラブはさまざまな選手の交差点です。J3からステップアップしてきた選手、J1に入れず不本意に入団してくる新卒選手、長年J2を主戦場にしているベテラン、ビッグクラブから戦力外を通告された元スター選手、J1からのレンタル移籍でふてくされている中堅、ビッグクラブへの移籍を目指す若手……。多様な選手が結束するためにも、なんのためにプレーしているのか、なぜプロサッカー選手になったか、誰のおかげでサッカーを続けられているのか、改めて考える必要があります。そのきっかけとなる場が「Make Value Project」なんです。

——プロジェクトで、選手にどんな変化がありましたか?

変化が顕著にあらわれるのは、ヒーローインタビューや、ファンサービスの一環で行う企業や学校での講演です。自分の考えや思いを言語化できるようになります。

またプロジェクトにはフロントのスタッフも参加します。小さなクラブだからこそ、選手とフロントの距離も近い。選手たちは、フロントのスタッフと接するなかで、自分たちを支えてくれる裏方の存在を実感し、市民クラブのなかでの自分の役割を自覚する選手もいます。

2021年12月9日の「Make Value Project」の様子。
写真=MITOHOLLYHOCK
2020年12月9日の「Make Value Project」の様子。パートナー企業であるノーブルホームとの共同実施で、村田航一、森勇人、平野佑一、住吉ジェラニレショーン、木村祐志の5選手とフロントスタッフなどが参加した。

残念ながら、なにも変わらないままクラブを去る選手もいますが、われわれの取り組みが他チームの選手たちにも広まっているのでしょう。他クラブのオファーよりも劣る条件でも、ホーリーホックを選んでくれる選手が増えています。あるいは、出番の少ない若手に対して「ホーリーホックで修行してこい」とレンタルで送り出してくれるJ1クラブも出てきました。