トランプ前大統領が2017年に離脱を表明し、20年11月に正式脱退したパリ協定(2015年12月にパリで採択された気候変動抑制に関する多国間の国際協定)に復帰するための大統領令にも署名した。気候変動問題に懐疑的でアメリカの産業を制約するような環境規制を弱体化してきたトランプ前大統領に対して、バイデン大統領は大統領選挙中からパリ協定への復帰を公言し、2050年までに温室効果ガスの排出実質ゼロを目指すことを公約として掲げていた。

バイデン政権の誕生とアメリカのパリ協定復帰を何より歓迎しているのは、気候変動問題を主導してきたヨーロッパ勢だろう。トランプ外交は行き当たりばったりで緻密な戦略があったわけではないが、ヨーロッパとの関係をきわめておろそかにしたことは間違いない。パリ協定を踏みにじったばかりか、NATO(北大西洋条約機構)もケチョンケチョンにけなして、離脱をちらつかせながらヨーロッパのNATO加盟国に軍事費支出の増大を迫った。

トランプ前大統領は、アメリカが突出してNATOの軍事費を負担していることが大いに不満だったが、もともとNATOは、米ソ冷戦期にソ連に対抗するためにアメリカが中心となって西側ヨーロッパ諸国と結成した軍事同盟である。冷戦が終結して久しい今、ロシアのプーチン大統領と気脈が通じているドイツのメルケル首相などは、アメリカさえ騒がなければNATOを縮小したいのが本音で、軍事費をかけなくてもロシアとうまくやっていけると思っている。

従って、ヨーロッパ勢からすれば国際協調路線のバイデン政権の誕生は望ましいし、パリ協定復帰に向けた大統領令の署名にはNATO同盟国に対するバイデン政権の明確なメッセージが込められているのだ。

北朝鮮とは停滞関係となる

トランプ外交の後遺症という意味では、中東のほうが傷は深い。トランプ政権は中東政策の軸足をあからさまにイスラエルに寄せた。歴代大統領で初めてエルサレムをイスラエルの首都として承認して、アメリカ大使館をテルアビブからエルサレムに移転、イスラム世界の反発と国際社会の懸念を招いた。さらに娘婿のジャレッド・クシュナー氏に隠密外交をさせて、イスラエルとイスラム教スンニ派大国のサウジアラビアを急接近させ、UAE(アラブ首長国連邦)、バーレーン、スーダン、モロッコなどのスンニ派イスラム国家とイスラエルの国交回復をバックアップした。

最終的にはイスラエルとサウジアラビアの国交正常化を目論んでいたようだが、仕上げるに至らず。それでもイスラエルとアラブ諸国の国交正常化をトランプ前大統領は「歴史的な和平合意」と自画自賛していた。