確かに、長年対立していたイスラエルとアラブ諸国の関係を変える第一歩にはなりえるが、一方でスンニ派イスラム国家とイスラエルの関係改善は、スンニ派対シーア派というイスラム教の古くからの対立構造を深刻化させかねない。中東のシーア派国家といえば大国イラン、イラク、シリアなどがあるが、いずれも中東情勢の大きな不安定要因になっている。

バイデン政権になって親イスラエルの中東政策が大きく変化するかといえば、米国内のユダヤロビーの存在を考えると、これは難しいだろう。

たとえば、これまたトランプ前大統領が勝手に離脱したイラン核合意にしても、パリ協定のようにバイデン政権が復帰に向けて歩み寄るかはわからない。イスラエルとの関係が大事なアメリカからすれば、イランとの関係改善に決定的なメリットを見出せないからだ。核合意に戻ったとしても、「勝手に抜けて勝手に戻ってきて『合意を守れ』とはどういう態度だ」とイランから強気に出られるのが関の山。イランの核開発が止まる保証もない。

従って、バイデン政権にとってもイラン関係は優先順位が高くないから、当面は前政権が敷いたイスラエルとスンニ派の宥和を基軸にやっていくしかないと見る。

一方、トランプ外交の成果を挙げるとすれば、歴史的な首脳会談を実現した米朝関係である。ただし、トランプ前大統領は金正恩朝鮮労働党委員長とは互いに話し合いで何とかなると甘く見ていて、結局対話は続かずに物別れに終わった。

バイデン政権になってから北朝鮮との関係はどうなるかといえば、オバマ時代に戻ると思う。すなわちバイデンと金正恩のトップ同士の直接ミーティングはせず、日韓などと連携して北朝鮮に圧力をかけていく形になるだろう。

米中対立はバイデンでも続くが……

バイデン外交の最大のテーマは、やはり対中関係である。外交演説でバイデン大統領は中国を「最も重要な競争相手」と位置づけたうえで、「アメリカの繁栄や安全保障、民主的な価値観への挑戦に直接対処する」とした一方、「アメリカの国益に適うなら中国政府と協力していく用意もある」とも述べている。

バイデン政権で新国務長官に就任したアントニー・ブリンケン氏は、オバマ政権下で国家安全保障担当大統領補佐官や国務副長官を歴任した人物で、上院の公聴会で「トランプ氏の中国への厳しい対応は正しかった」と述べて対中強硬路線の継続を示唆した。