けれど息子はまだ子供です。自分の夢を諦め、誰かに譲ることは大人になってからでもできます。主人公は我慢しなくていいよと息子を抱きしめました。
けれどそれは同時に、息子の中に芽生えた「友達を応援したい」という優しさを無視するかたちにもなってしまうのではないか……。
「正しい願い事」とは何なのか、ぜひ一緒に考えていただけたらと思います。
ここだけの書き下ろし新作「一人きりの映画館」
『一人きりの映画館』
一人で映画を観ると決めた。
友人はつまらないと断言したけれど、前から気になっていた最新作。
誰も誘わず映画館に行くのは何年ぶりだろう。
一人で映画を観ると決めた。
友人はつまらないと断言したけれど、前から気になっていた最新作。
誰も誘わず映画館に行くのは何年ぶりだろう。
キャラメルのかかったポップコーンと共に席に座った。
不安だったのは最初だけ。あっという間の二時間だった。
面白いと確信する自分ごと好きになれた休日だった。
【解説】
今回のために書き下ろした作品です。
スマホから膨大な数の「口コミ」を見ることで、良くも悪くも「失敗」することが少なくなった昨今。通販で物を買う時、レストランを選ぶ時、映画館まで新作映画を観に行くかどうか決める時……「口コミ」を確認し、評価が低ければ他を探すという方は少なくないのではないでしょうか。
事前に情報が分かるのは非常に便利です。価値観とは、人との関わりの中で生まれるので、さまざまな意見に触れられるのも素敵なことです。とはいえ、人の意見を軸に行動することを続けているうちに、いつしか自分らしい価値観を見失うのではないだろうか……。
この主人公は評判の悪い、けれどもずっと気になっていた映画を観ます。
大人であれば2000円近くするチケット代は、友人の言っていた通りつまらなければ水の泡です。けれどすぐに映画の世界に飲み込まれ、主人公は自らの感性の物差しを使い「面白い」という確信を得ることができました。
「口コミ」だけを信じていたら訪れなかった人生の1ページ。不安定な時代ですが、時々は「数」の多さに流されず、自分の内側に生まれる直感を信じてみると、新しい扉が開くのではないかとも思います。