140字が織りなす豊かな物語
これまで4年にわたり、Twitterで「140字ぴったりで完結するものがたり」を書いてきました。
もともとは、「小説などの長い文章が読めない、読む時間がない」という方にも楽しんでもらえるものを書きたいという思いで始めた試みです。現在、日本版Twitterの文字数制限が140字。その長さであれば、苦なく読んでもらえるかもしれない……と思ったのが始まりでした。
140字という文字数は少なく思えますが、実際は想像以上に豊かな物語を書くことができます。これまで1100篇以上の「超短編小説」を書いてきた中で「140字でこんなふうに話が書けるとは」と驚かれることが多々ありました。『最後に会ってさよならをしよう』に収録し、Twitterでもたくさんのいいねをいただいた、人気の作品の背景を少しだけご紹介させていただきます。
スマートグラスに「ミュート」機能が追加された。
ボタン一つで嫌いな人を視界から消せるというものだ。
生活上必要な時だけ相手が表示される仕様で、
ストレスが減ると評判だ。
そんなある日、駅でスーツ姿の人から肩を叩かれた。
「あなたは百人以上からミュートされました。
別区画で暮らしてもらいます」
「ミュート」機能が、もし現実世界で使えたら
【解説】
ツイッターやインスタグラムなど、多くのSNSには「ミュート」機能が存在します。
端的に言うと特定のユーザーの投稿を「非表示」にする機能です。「フォローを外すのは角が立つが、投稿は見たくない」という場合に役立ちます。
この作品は、そんな「ミュート」機能を現実世界でも使えたらどうなるだろう? という発想から生まれました。
メガネ代わりのスマートグラスを使用し、会社の同僚やクラスメイトなど、同じ組織には属しているが見たくない人を視界から綺麗に消せたら……。もしかするとSNSと同様に役立つ機能の一つとなるかもしれません。
けれどそうなれば、多くの人から「ミュート」され、もう誰からも見えなくなっている「透明人間」が出来上がる可能性が出てきます。
ミュートされるような言動をしているので、大抵の透明人間は何らかの問題を抱えた人物でしょう。
そうなると次は、表の社会からこっそりと透明人間をひっそりと消して、よりよい社会にするための組織が登場してもおかしくありません。組織の人から肩を叩かれた透明人間は別区画へ隔離。けれど現実世界では人が消えても誰も気付きません。
果たしてその後、透明人間達はどうなるのでしょうか? 私がもし続きを書くなら、もしかすると今度は隔離場所で、透明人間からさらに「ミュート」される人間が生まれるかもしれない……と考えたりします。