アメリカは日本より5年進んでいる

【北尾】いろいろなものにアンテナを張っていますが、例えばアメリカがどういう動きをしているかは、常に何年も前から意識しています。ソフトバンクの孫さんと一緒に資料を作っているとき、アメリカは日本より、例えばインターネットの世界は5年ほど進んでいました。だからアメリカで成功しているものを日本に連れてくればいいのではないかと。これがタイムマシン経営という言い方にはなりましたが、何事も先達はあらまほしけれ(※)、先達のアメリカ、これをまずウォッチしておく必要がありますね。

※先達(せんだつ)はあらまほしきことなり どんな些細なことにも指導してくれる人は欲しいものだということ。

【田中】そういう意味では、例えば証券では、チャールズ・シュワブ(※)などでしょうか。

※チャールズ・シュワブ 米国サンフランシスコに本社を置く、1971年創業のオンライン取引を中核とする証券会社、金融持株会社である。株式の売買委託手数料ゼロを実施。

北尾:そうですね。常にそういうものを見ています。ロビンフッド(※)が手数料無料で出発した、それに対してチャールズ・シュワブはどういうタイミングで同じような戦略で迫っていくのか。そういうのを常にみています。これは非常に大事です。

※ロビンフッド 米国でミレニアル世代向け金融サービスとして大きな注目を集めている手数料無料のオンライン証券会社。

SBIホールディングス 北尾吉孝代表取締役社長と立教大学ビジネススクールの田中道昭教授

新入社員の小論文は全て目を通す

【北尾】それからもう一つは、若者の感性です。我々の時代と違って、今の人はもう片手でパパっとスマホを操作しますよね。我々は両手でやらないとできません、もう全然違うわけです。私は例えば新入社員が入社したら、隔週で小論文を書いてもらう。それに全部目を通します。そこから何を得るかというと、若い人がどういうふうに感じているか、この流れを読むのです。年寄りの方ばかりを見ていたら進化がない。若い人の方を見て、書を見て、ショートエッセイを見てというようなことから流れを読むのです。

例えばeスポーツ。私は自分でゲームをやることはないですが、これがいけそうだというのは感覚的に若い人から教えてもらうことができる。ですから、すぐ事業をやりなさいとなるのですね。そういう意味では普通の会社のdecision makingとは全然スピードが違います。

若いからと排斥することはないですし、「下問を恥じず」と『論語』にあるように、身分の下の者に対して質問すること、これを孔子は恥じる必要がないと言われているわけですね。私もそうだと思います。だから分からないことは、若い人の意見を聞き、質問することは質問し、調べることは調べる。徹底してそういうことをやっています。そういうことなしに、なかなか時流には乗れないです。