「最後の親孝行」と意気込んで、介護離職を選ぶ人がいる。だが、その選択が正しいとは限らない。ファイナンシャルプランナーの井戸美枝氏は、「育児・介護休業法で、介護休暇や介護休業、勤務時間の短縮などさまざまな支援策が定められている。勢いで離職する前に、それらの制度の利用を検討してほしい」という――。

※本稿は、井戸美枝『残念な介護 楽になる介護』(日経プレミアシリーズ)の一部を再編集したものです。

車いすを押すヘルパーの後ろ姿
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年間で約10万人が介護を理由に会社を辞める

ケース:父母70代。娘40代シングルマザー、別居。
P子さんは43歳、小学校の娘がいるシングルマザーです。大学卒業後、勤めた会社で働き続け、産休・育休を経て中間管理職になりました。ある日、実家の母(75)から電話がかかってきました。父(78)が体調を崩し、母が病院に連れていったら、そのまま入院してしまったというのです。
重要な会議があったのですぐに帰省できず、週末、子どもを連れて実家に帰りました。母から聞かされたのは、父が末期のガンだということです。パニックに陥ったP子さんは、しばらく会社を休んでそのまま実家に滞在することにしました。
「自分が実家に戻って父を看取りたい」――。P子さんは休み明けに出社した際、上司に「退職して実家に帰ります」と告げてしまいました。

ある日突然、親が倒れて、介護と仕事の両立が難しいと感じると、気持ちが離職に傾いてしまいがちです。1年間で約10万人が介護を理由に会社を辞めると言われていますが、介護離職は「介護破産」の入り口です。

生命保険文化センターが、過去3年間に介護経験がある人に介護費用などを聞いた2018年度の調査によると、介護生活をするにあたり、住宅の改修や介護用ベッドなどの購入を含めた初期費用は約69万円、月々の介護にかかる費用の平均は7.8万円でした。

介護経験者が実際に介護を行った期間の平均は4年7カ月(54.5カ月)で、4年以上介護をした割合も4割を超えています。単純にこの数字を組み合わせると、高齢者1人の介護に必要な金額は494万1000円で、これに日々の生活費が加算されます。

月々高齢者が受け取る年金が、7万8000円を下回れば、介護費用の不足分と生活費は家族が負担しなければなりません。仕事と介護の両立が困難になり、介護のために離職を選ぶと、再就職したとしても良い職につくことができず、経済的困窮に陥ることがあるのです。