医療崩壊が叫ばれたとき、一般病棟もICUも患者数が減っていた
「新型コロナによってベッドが足りなくて医療崩壊が起きる」と叫ばれていた時期、実は多くの病院では一般病棟もICUも患者数は減り、稼動率は下がっていました。ICUでは患者数対看護師数が通常2対1のところ、コロナ重症患者の受け入れ病院ではその体制を1対1またはそれ以上の看護師配置をしている病院が多く見受けられます。それほどコロナ患者には手厚いケアが必要だという事です。
ICU看護体制を1対1とするなら、コロナ重症患者受け入れ最大キャパシティーはICU病床数の半分となるため、結果的に稼働率は下がる事になります。一般病床と同じ議論ですが、ICUで逼迫していたのは「病床」ではなく「医療従事者」なのです。
コロナ第3波到来とされる2020年11月中旬現在、厚生労働省の新型コロナ専門家会合では、感染状況を4つのステージに分類し、医療提供体制に大きな支障が出ることが懸念される「ステージ3」指標を病床利用率25%超として、それに該当する都道府県を発表しています。
通常、利用率が25%ですと病床はガラガラ状態です。この指標はコロナ患者の治療やケアが通常の2~3倍かかる事に対する医療従事者の労力を表現したものだと考えられます。つまり病床稼働率が25%の場合、医療従事者にとって50%から75%の多忙さになるという意味です。
逼迫しているのは病床ではなく医療従事者だ
「日本は病床が不足している。大変だ!」とミスリードな報道になっていますが、コロナ患者を受け入れ病院で逼迫しているのは「医療従事者」なのです。
20年の春、コロナ患者を受け入れた病院の中には、4月から5月でも一般病床やICUの稼働率が8割を超える病院が一部ありました(図表1、3参照)。コロナ専用の病室や病棟を確保して一般患者を制限した場合、使える病床数が制約されるので、これら高稼働だった病院では病床が逼迫した状況にあったといえるかもしれません。
つまり、日本全体では病床は潤沢に余っていたけれど、コロナ患者受け入れ病院では病床は逼迫していたかもしれない──。もしそうだとすると、日本では、世界でも突出して多い急性期病床の医療資源が、必要な「場所」と「タイミング」で有効利用されていなかったということになります。ここから「需要と供給のミスマッチ」の問題が浮かび上がってくるのです。