患者が多く押し寄せても、ICUの稼働率は大きく下がっていた

ICUと、HCUやERなどの「ユニット」を保有する401病院でみた場合も同様の傾向でした。コロナ患者を受け入れたユニットの平均稼働率は2月(70%)に比べ、4月(65%)、5月(58%)、コロナ患者を受け入れなかったユニットでは2月(63%)に比べ、4月(58%)、5月(52%)とコロナ受け入れ有無に関わらずユニットの稼働率は下がっていったのです。

ECMOや人工呼吸器などを必要とする新型コロナの重症患者をICU等のユニットで受け入れて治療するわけですので、ICU等の稼働率が急上昇してそれ以上重症患者の受け入れが難しくなってキャパシティーを超えてしまうことが、正に「医療崩壊」の危機であると考えられます。

実際、イタリアでは亡くなったコロナ患者の多くは、ICUのベッドではありませんでした。感染者が増えすぎて、ICUのキャパシティを大きく超えてしまったのです。このように、欧米では重篤なコロナ患者が爆発的に増えてICUの稼働率が急激に上がってしまったことで、「医療崩壊」が起きた国もあったことは繰り返し説明してきたとおりです。

ということは、多くのコロナ患者が医療機関に押し寄せていた4月は、日本の病院のICU等はきっとフル稼働になっているはず。そう思う方がたくさんいらっしゃると思いますが、データは意外な「真実」を浮かび上がらせています。コロナ感染拡大で患者が多く押し寄せていたにも関わらず、その重症患者の受け皿となっているICU等の稼働率は大きく下がっていたのです。

コロナ患者受け入れ有無に関わらずICU等の稼働が落ちた理由のひとつとして、術後ICUで管理するがん手術等の多くが延期になった影響が大きいと考えられます。

この時期ICU等の患者が減っていたとしても、集中治療室で受け入れるコロナ重症患者は、他のICU患者と比べて、医師・看護師・臨床工学技士など医療スタッフの治療やケアの手間は数倍かかることから、病院職員は相当な苦労や緊張感を強いられていたはずです。

ICUも動線を分けられるかどうかで稼働率が変わる

ここでも一般病棟と同じように、ICUがどのようなパターンでコロナ患者を受け入れていたかを確認してきましょう。図表4をご覧ください。図表2と同様に4つのパターンに分類し、縦軸が稼働数、横軸が時間の推移を示しています。

ICUにおけるコロナ患者と非コロナ患者受入パターン
出所=『医療崩壊の真実

左半分でコロナ患者受け入れ前の稼働状況、右半分でコロナ患者受け入れ後の稼働状況を可視化している点も同様です。

パターン①の「もともと空き病棟」はICUでは該当しません。②はICUをコロナ患者専用化にしたものです。②はおそらく、ICU内でコロナと一般患者を医療スタッフが動線的に分ける事ができず、コロナ患者だけを受け入れたパターンであると推察されます。一般患者の受け入れを抑制せざるを得なくなったため、ICUの稼働率が激減していることがわかります。

③と④はコロナ患者と他の疾患の患者のどちらも受け入れたパターンで、こちらも一般病棟での分析と同様に、違いはコロナ患者の割合です。

一般病棟と同様、ICUにおけるコロナ患者の受け入れも、感染予防策としてICU病床ごとに「動線」を分ける事ができる場合とできない場合とでは、一般患者の受け入れキャパシティは変わります。パターン②の様にICUをコロナ専用に転換した場合、稼働率は大きく下がるでしょう。