「ウイルス感染を疑う軽症の人を診るスペース」をつくった

同院では新型コロナ陽性の透析患者も多数受け入れている。私の目の前で、透析のための機器と場所が足りなくて、慌ただしく対応した場面もあった。

もちろん新型コロナと全く関係なく、ほかの原因による肺炎、脳血管心疾患、交通事故、不慮の事故の患者もERを訪れる。

仕事で「電撃傷」(感電)を負った人、飲酒後に転倒して外傷性くも膜下出血を発症した80代の男性、路上で殴り合いの兄弟げんかをして顔面から血を流す40代男性、サッカーの自主練をしていて足を脱臼した10代の男の子など、年末年始も次々に患者が運ばれてきた。

「救急現場にはなんの病気が潜んでいるか、どこが傷ついているか、わからない人がたくさんきます。今回は“感染症の蔓延”という特殊な状態ですが、それでも普段の救急体制と基本的には変わりません。常日頃から救急体制が機能している病院であれば、どこも普段と同じでしょう。ただ隔離スペースをどうするか、それが一番の悩みでした。一時期、内科や外科などほかの科の先生方にERに入ってもらおうという話になったのですが、普段さまざまな患者を見慣れていないと混乱が起きると思い、『ウイルス感染を疑う軽症の人を診るスペース』をつくったのです」(山上医師)

院外に建てられたプレハブのコロナ臨時病棟
筆者撮影
院外に建てられたプレハブのコロナ臨時病棟

それが院外に設置されたプレハブの「発熱外来」だ。救急外来でのトリアージで「軽症」とER看護師に判定され、さらにウイルス感染が疑われる場合、ここにまわされる(図表参照)。同院の場合、発熱外来を受診したおよそ「6人に1人」が新型コロナ陽性だという。

湘南鎌倉総合病院の救急医療(ER)体制

開業医の協力が得られたから「発熱外来」を設置できた

現在、湘南鎌倉総合病院の発熱外来は24時間体制で診察を行っている。午前中は同院の各科医師、午後は地域の開業医、日祝・夜間など一般外来の診療時間外ではER医師が担当する。開設が決まった当初は「コロナの患者を診る」という姿勢を前面に出すことになるため、“風評被害”を恐れて「院外設置」に反対する意見も院内から出たという。結果、予定より1カ月遅れて2020年4月スタートとなった。それでも私には相当早い決断だと感じる。

「もし発熱外来がなかったら、ERに患者さんが入りきらなくなっていたでしょう。また“院内”に設置すれば、新型コロナの患者が入り込むリスクも高くなります。外にあれをつくって本当によかった」と山上医師は振り返る。

それは同院がここ5年で築いた“地域病院との連携”があってこその実現ともいえる。地域の開業医はプレハブが建つ前から、同院での新型コロナ診療に積極的に参加してくれていたというのだ。

一方で、今も開業医の協力が得られず、厳しい状況が続く地域も多い。

青森県八戸市では2施設を除き、開業医が「かかりつけ患者以外は対応しないこと」を表明している。コロナ重点病院でもある八戸市立市民病院院長の今明秀医師が嘆く。

「本来は歩ける患者や、コロナの疑いの患者は開業医が、歩けない時や入院が必要な患者を当院で診るという体制にしたかったのです。ところが、コロナ患者を分けて診察する体制が作れないこと、もし開業医の病院職員で陽性患者が出てしまって病院が休業となった時の補償が少ないこと、そして風評被害を恐れて、受け入れが難しいようです」