「のぼり」より「くだり」の転院搬送が難航する

私が取材した年末も、9人の退院に加えて、1人の重症患者が転院搬送されるところだった。転院先の病院に運ぶまで付き添う澁谷大樹医師の顔に緊張感が走っている。

(写真左)転院搬送の様子、(写真右)澁谷大樹医師
筆者撮影
(写真左)転院搬送の様子、(写真右)澁谷大樹医師

「新型コロナの場合、呼吸状態が急に悪くなることがあるので、搬送時間が長くなって状態が悪くなったら救急車内で気管挿管を行わなければならないんです」

この日は10人が退院したものの、12人の新たなコロナ患者が入院になった。最近は出ていく以上に入ってくる患者が多い。そこで重要となるのが、このような「転院搬送」なのだ。

転院搬送とは、病院から病院へ患者を搬送することを指し、二つのパターンがある。先ほどの例のように、より高度な治療を必要とする搬送を「のぼり搬送」といい、その反対に緊急治療の必要性が薄い患者が別の病院へ搬送されることを通称「くだり搬送」という。

新型コロナに関しては、「のぼり」より「くだり」のほうが難航している印象を受ける。

「シンプルにコロナに感染して肺炎で入院しました。肺炎が良くなりました。お大事に、と帰れる人は少ない」と、山上医師。

「コロナに感染したことを契機に食べられなくなった、だから施設に戻れない、などのケースはよくあります。本来は次のステップとしてリハビリできる病院に送りたいのですが……」

しかし、新型コロナが治癒した後の、受け入れ先確保が難しくなっているのだ。

救急救命士のみなさん。(向かって左から)渡部圭介さん、村上さん、永澤由紀子さん、加藤大和さん
筆者撮影
救急救命士のみなさん。(向かって左から)渡部圭介さん、村上大樹さん、永澤由紀子さん、加藤大和さん

知的障害をもつ50代女性の「受け入れ先」を探す

1月3日に日付が変わった真夜中、救急救命士3人と、山上医師は、ある患者の転院に頭を悩ませていた。

知的障害をもつ50代女性が2020年12月、新型コロナの検査で陽性と判定された。2週間入院して治療を受け、その後に陰性を確認して12月下旬に退院。しかし、1月2日に再び呼吸の状態が悪くなり、発熱もあっため、救急車で同院ERへ。ERではレントゲン、CT、心電図、尿検査、そして新型コロナに関する抗原定量検査を行った。結果、コロナに関しては陰性、肺炎も新型コロナの跡はあるものの再燃していないと判定された。

「もうコロナを疑わない状態ならば、患者を他院に転送させたい」と、山上医師は考えた。より緊急性の高い患者を受け入れ、治療を進めなければならないからだ。新型コロナ感染症対策本部が作成した「神奈川モデル」では「検査結果で(コロナが)陰性化した患者の入院管理」をわりふられた病院がある。

同院には医学的知識を有する救急救命士が勤務し、救急車からの電話を受けたり、ほかの病院への転院搬送の交渉などのような煩雑な作業を行っている。救急救命士が受話器をとった。私も隣で電話に聞き入った。