なぜ「労働力取りまとめ業」にはニーズがあるのか

ここまで読んできた皆さんは、単純な疑問が湧くだろう。それは、「何故、直接雇用しないのだろうか」ということである。直接雇用してしまえば、仲介業者への手数料を支払う必要がないため、2割程度は支払いを削減できるはずである。

労働力取りまとめ業の本質的な価値、それは「労働者の質のスコアリング」「すぐに、大量に手配できる」「解雇規制への対応」の3点である。日本市場においては特に、労働者保護のための解雇規制が極めて厳しい。

リストラを行うためには、整理解雇の4要件を満たしていないと、合法的な解雇とはみなされない。具体的には、①人員整理の必要性、②解雇回避努力義務の履行、③被解雇者選定の合理性、④解雇手続の妥当性の4つの要件が満たされている必要があり、日本における合法的な解雇のハードルは極めて高いと言える。

このことが逆に、派遣業への強いニーズを生んでおり、労働力のニーズがなくなる可能性がある場合、その仕事に対して正社員を雇用したくない、というニーズが働くのである。

また、正社員であればAさんの給料を、同じ部署のBさんの給料の3倍にする、というのは実質的に極めて困難であるが、フリーランスであれば可能である。

このような、流動性の提供とダイナミックプライシングが、法人にとっての労働力取りまとめ業のニーズであると言えるだろう。

規制緩和の勢いにのったパソナだが…

「労働力を取りまとめて売る」ということが、商売のテンプレートとして有益だということはわかったが、だからといって「とにかく人を集めれば安泰」というわけではもちろんない。

例えば、労働力を取りまとめて手数料を抜くビジネスとして真っ先に思い浮かぶのは、「聖域なき構造改革」と銘打ち、小泉内閣の時に行われた規制緩和を背景に急成長した「パソナグループ」だろう。

小泉内閣のブレーンと言われ、規制緩和を進めた張本人である竹中平蔵が会長を務めるパソナであるが、事業規模は大きいものの、営業利益率は極めて低い状態である。また、市場からの評価としても、親子上場をしている子会社のベネフィット・ワンの時価総額を大きく下回り、市場からの評価を受けている状態とは言い難い。

というのも、派遣業自体は元々儲かるビジネスであるが、近年の派遣法の改正により、労働者保護の声が高まり、労働者派遣の期間が同一社員同一部署であれば原則3年までとなるなど、法律が厳格化されている。

また、それ以上に、元々パソナは「ホワイトカラーの派遣」というのが事業の根幹にあるが、これはRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)など、業務効率化の波がきている昨今の社会情勢の煽りをもろに受ける。

つまり、ホワイトカラーで働きたい人は余っており、労働者取りまとめ業も特色がないと生き残りづらくなっているのである。