多くのがんは「恐れるに足らない」病気になる

たとえば、がん細胞だけをピンポイントで狙い撃ちすることで個別のがんに対応した治療を可能にした「分子標的薬」による治療の確立。

がん細胞によって沈黙してしまった免疫細胞を覚醒させ、再びがん細胞を攻撃できるようにする「免疫チェックポイント阻害剤」という画期的な治療薬の開発。

さらに、がん細胞に感染して溶解させる性質を持った腫瘍溶解性ウイルスを使用した治療薬といった新薬の治験も、多くの企業で現在進行形で行われています。

また、アメリカ国立衛生研究所(NIH)に所属する小林久隆医師が開発した「光免疫療法」は、分子標的薬による「標的療法」と「近赤外線による光化学反応」を組み合わせた新しいがん治療。日本では、楽天メディカルジャパン社(旧楽天アスピリアン社)というベンチャー企業がライセンスを受けて2018年から治験を開始。2020年3月に承認申請され、同年9月25日に頭頚部がんを対象に正式に「アキャルックス」という名で承認されました。

胃がんや直腸がん、大腸がん、乳がんなどは、大方の人にとってもはや不治の病ではなく、手術や治療で克服可能な「普通の病気」になってきています。また、血液のがんである白血病も、「不治の病リスト」からもうほぼ消えました。

ほとんどのがんが「恐れるに足らない病気」となり、がんによる死亡率が「ゼロ」になる日も決して遠くはないでしょう。

ただ誤解のないように申し上げると、すべてのがんが「恐れるに足らず」というわけではありません。克服可能ながんは増えるけれど、膵臓がんや胆管がんなど現代の医療をもってしても克服が険しいがんも存在しています。それゆえ、医療テクノロジーのより一層の進化が期待されているということは認識しておく必要があるでしょう。

老朽化した臓器を“交換”する時代に

人生120年の不死時代を迎える私たちにとって注目すべき医療テクノロジーに、老朽化してきた臓器を新しい人工の臓器に置き換える「臓器代替技術」があります。臓器の交換には提供者(ドナー)の存在が不可欠な臓器移植という方法もありますが、人工臓器との交換ならばドナーに頼らない治療が可能になります。

実は、医療の現場ではすでに部分的な臓器の交換が行われています。たとえば水晶体を人工レンズに交換する白内障の手術は立派な臓器交換と言えます。また、損傷した角膜にiPS細胞からつくったシート状の角膜細胞を移植する治療も臨床応用に近づいています。