世界的な株価上昇が起こった理由

11月7日、バイデン氏の勝利確実と報道されると、米国の株価上昇は一段と勢いづいた。11月16日、ニューヨークダウ工業株30種平均株価は最高値を更新した。翌17日には日経平均株価が29年ぶりに終値ベースで2万6000円台を回復した。

2020年11月19日、デラウェア州ウィルミントンで知事との会合後に話すジョー・バイデン米次期大統領。新型コロナの感染者が急増しても、全米規模のロックダウン実施しないと表明。
写真=AFP/時事通信フォト
2020年11月19日、デラウェア州ウィルミントンで知事との会合後に話すジョー・バイデン米次期大統領。新型コロナの感染者が急増しても、全米規模のロックダウン実施しないと表明。

世界的な株価上昇は、米大統領選挙が終わったという不確定要素の解消と、米国を中心に世界的な低金利環境が続くとの期待に支えられた。それに加えて、米国でワクチン開発への期待が高まったことも大きい。

その結果、これまでの株価上昇をけん引したIT先端銘柄の利益を確定する一方、ワクチン開発によって需要回復への期待が先回り的に高まった航空やエネルギー、観光関連などの銘柄を買う動き(セクターローテーション)が活発化し、既存産業の株価が押し上げられた。

大統領選挙前後の株高は、バイデン氏の政策期待とは異なる要素に影響されている。見方を変えれば、バイデン氏の政策運営には確認すべき点が多いといえる。外交・経済政策に関してトランプ大統領とバイデン氏の違いなどを確認し、それがわが国経済にどういった影響を与えるか、今後の展開を考察したい。

米国のリーダーシップの修復を目指すバイデン

共和党のトランプ大統領の政策運営スタンスの特徴は、トップダウンだったことだ。同氏は、専門家の意見に耳を傾けるよりも、自らの判断に基づき上意下達で外交政策などを進めた。

良い例が対中制裁関税の重視だ。それによってトランプ氏は対中輸出を増やし、“ラストベルト(さび付いた工業地帯)”を中心に白人労働者層の支持獲得を狙った。また、トランプ大統領はキリスト教福音派の人々の支持を得るために、イスラエルを重視した中東政策を進めた。

そうした政策をトランプ氏は“米国第一”と呼んだが、実体は点数稼ぎを目指した“トランプ・ファースト”の政策だったといえる。その結果、国際社会において米国は孤立し、米国内では人種問題の深刻化など社会の分断が深まった。

また、トランプ氏の政策運営スタンスは、全体として世界経済に負の影響を与えたと考えられる。同氏が重視した対中制裁関税が世界のサプライチェーンを混乱させ、中国向けを中心に韓国の輸出が大幅に減少したのはその良い例だ。

一方で、民主党のバイデン氏は実務家の協議の積み重ねによる“ボトムアップ型”の外交政策を重視し、国際協調と米国のリーダーシップの修復を目指している。対中政策に関して、民主党内には共和党以上の対中強硬論者がいる。

バイデン政権になっても米国は中国に厳しい姿勢で臨むだろう。誰が国務長官になるか不確定な部分もあるが、基本路線として米国の対中強硬姿勢は続き、米中対立は先鋭化する可能性がある。

ただし、米国の対中戦術は変わる可能性が高い。バイデン氏は対中制裁関税に反対だ。次期政権は、非関税障壁(人種問題に関与する中国企業との取引禁止や、対中輸出規制の強化など)によって中国に圧力をかける可能性がある。

そのために、わが国など同盟国政府との実務家協議の重要性は増す。ボトムアップ型の国際協調を重視した米国の外交政策の推進が、国際世論に与える影響は小さくないはずだ。