ジョブ型がはやり出した2つの理由

それでは、なぜ最近になって多くの企業がジョブ型人事制度の検討を始めたのか。そこには2つの理由がある。

1つは事業環境の変化だ。日本企業は古くから、企業の複数の部署をローテーションさせながら長い時間をかけて共通の知識やスキルを身に付けた「ゼネラリスト」を育成しようとしてきた。総合的な知識が管理職としての条件であり、リーダーシップやコミュニケーション能力などを重視して幹部候補を選定してきた。

しかし、その人材育成や評価手法が通用しない時代がやってきた。人材マネジメントが専門で、内閣府参与なども務めたリクルートフェローの大久保幸夫氏は次のように解説する。

「この20年ほどでグローバル化が進み、日本企業も欧米企業と競争する必要が生じてきた。加えて、1つの技術によって一気に事業環境が変わる『テクノロジーの時代』になった。この変化によって、ある領域に特化したプロフェッショナルの価値が高騰した」

大久保氏の言うように、ゼネラリストよりもプロフェッショナルを育てなければならないという危機感を日本企業が持つようになった。しかし、「これまで日本企業はプロフェッショナルを冷遇してきた。1980年代に生まれた専門資格制度の名残であり、ゼネラリストである管理職の下に専門家が配置されるのが一般的で、専門性が低い管理職のほうが専門家より給与が高いという状況が普通だった」(大久保氏)。

ジョブ型雇用はテレワークと相性がいい

こうした危機感から、日本企業の中には新型コロナウイルスの流行前からジョブ型に転換しようとする動きは既に始まっていた。経団連は2018年にまとめた「Society 5.0」でもジョブ型を取り上げ、積極的に推進してきた。中西宏明会長は2019年5月に「終身雇用を前提に企業運営、事業活動を考えることには限界がきている」と発言し、日本型雇用からの脱却を掲げ改革を進めてきた。

そのタイミングで、新型コロナの感染が拡大した。緊急事態宣言による外出自粛要請は、テレワークという半強制的な働き方改革をあらゆる企業に迫った。

ジョブ型が流行するもう1つの理由はそこにある。リクルートの大久保氏はテレワークがうまく機能する条件として、「従業員1人ひとりにある程度の権限が委譲されており、責任を持って自律的に働いている状態」を挙げる。上司にその都度、指示を仰ぎ、繰り返し報告と上司のチェックを待っているような働き方は、テレワークで生産性が極端に落ちる傾向があるからだ。

ジョブ型雇用を導入すると、従業員は自らの職務に応じて自律的に働き、プロフェッショナリズムを高めようとする。その働き方は、テレワークと非常に相性が良いとされる。新型コロナによる新しい働き方が求められている中で、ジョブ型の人事制度に積極的になる企業が多いのはこのためだ。