「職能」「役割」「職務」で評価する給与制度の違い

ジョブ型を取り入れる企業は、その前提として従業員の専門性を認め、尊重する必要がある。本人の意思に反した異動や職務変更を極力減らし、その職務と専門性のレベルによって従業員を評価することになる。

当然、給与もそのレベルによって決まる。企業が従業員の給与を決める方法は大きく3種類に分かれる。1つ目は多くの日本企業が古くから取り入れてきた「職能資格制度」である。「職能」とは従業員が持つ職務遂行能力を指し、「その人の能力」に給与を支払う方式だ。職能をいくつかの等級に分け、その等級に応じて給与を決める。課長、部長などの役割と等級は必ずしも一致しない。日本型雇用システムでは職能の定義がややあいまいで、多くは経験によって職能等級が上がるため、年功序列につながるという批判の声もある。

2つ目は「役割等級制度」で、ミッショングレード制とも呼ばれる。役職などに応じて事業目標や部下の育成などのミッションを与え、その役割のグレードに合わせて給与額を決める制度だ。

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「職務等級制度」では異動で給与が上下することがある

3つ目は「職務等級制度」で、職能資格制度が「人の能力」に給与を支払うのとは対照的に、その人の「職務=ジョブ」に給与を支払う。ジョブ型雇用では一般的に、この職務等級制度による給与・評価体系を採用する。

例えば、A氏という従業員がいたとしよう。職能資格制度は「その人の能力」に給与を支払うので、A氏が経理部からマーケティング部に異動した場合でも給与は原則として変わらない。A氏という人が持つ経験による職能は変わらないと考えるからだ。

一方で職務等級制度では、A氏の「仕事」を評価する。ジョブ型の雇用形態ではそもそも異動の可能性は低いが、例えばA氏が経理のプロで、初めてマーケティングを担当する場合は給与が下がることになり、マーケティングに精通し、経理よりも高いレベルの仕事ができる場合は給与が上がることになる。

ジョブ型は従業員の職務=ジョブを評価する雇用形態である。「ジョブ型の人事制度」とは、従来の正社員雇用のまま、ジョブ型の特徴を取り入れた評価制度などを差し、ジョブ型雇用とは異なる。最近になって多くの日本企業が検討しているのは、ジョブ型の雇用形態ではなく人事制度だということをここに付記しておく。