疑問②「ジョブ型雇用」のメリット・デメリットは?
具体的にジョブ型雇用にはどんなメリットとデメリットがあるのか。それを企業側、従業員側の双方から見ていこう。
企業側のメリット・デメリット
疑問①で見た通り、企業にとってはグローバルに戦えるプロフェッショナル人材を育成・採用しやすくなる点が最大のメリットとなる。業務範囲や勤務地などを限定することで、グローバルに戦えるプロの採用が可能になる。メンバーシップ型雇用では、職歴や入社年次などによって給与が固定化しがちだったが、ジョブ型雇用では高い専門性を有しているエンジニアなどに有利な条件を出しやすい。
一方で、従業員を異動させにくいというデメリットがある。欧米企業と違って日本では客観的に見て合理的な理由がない場合、従業員を解雇することが難しい。ある事業部門を縮小したりその事業から撤退したりする際には、従業員を解雇せず他部門に異動させるなどしてバランスを取ってきた。
「多くのプロを抱えることで企業主導の異動がこれまでよりやりづらくなる中で、日本の法体系でも企業経営が成り立つのか。雇用をきちんと守れるのか。その点はまだはっきり見えていない」とリクルートフェローの大久保氏は言う。
企業にとっては、より待遇の良い企業へ人材が流出してしまうという恐れもある。
“名ばかりジョブ型雇用”には要注意
従業員側のメリット・デメリット
従業員にとっては、キャリア形成を自ら考えやすくなるというメリットがある。メンバーシップ型雇用の場合は、会社主導による異動が一般的で、「キャリアは会社が決めるもの」「与えられる仕事が数年で変わるから専門性を高めようがない」という諦観を抱くビジネスパーソンも多かった。ジョブ型では従業員の専門性を重視するため、望まない異動をすることなく自分の専門性を高めることができる。
また、磨いたスキルが評価や給与に直結するという分かりやすさもある。職務だけでなく、働く時間や勤務地を限定できる点もジョブ型雇用のメリットになる。子育てや介護などとの両立がメンバーシップ型と比較して容易になる場合がある。
加えて、高いスキルを有していれば転職しやすくなる点も従業員のメリットの1つだ。年齢や学歴ではなく、職務遂行能力が採用基準のため、スキルがキャリアアップに直結する可能性が高い。
ただし、従業員にとっては「危うい点もある」というのが大久保氏の見解だ。1つは、日本企業の脱終身雇用につながりかねないこと。「まだ現実に起こっていることではないが、事業撤退などで部署がなくなった場合、ジョブ型の雇用形態では職を失う可能性がある」(大久保氏)
もう1つは、ジョブ型とは名ばかりで、古くからある「専門職員」「地域限定社員」のように、職務や勤務地を限定することで給与を低く抑えられてしまう可能性があることだ。ジョブ型の給与制度が、「その仕事を評価する」という原則に基づいているかどうか、転職の際にはきちんとチェックする必要があるだろう。