「この国から『非正規』を一掃」で韓国に起きたこと

「誰もが納得できる透明性の高い賃金体系や職場環境の整備・充実は、企業にとっても、良い人材を確保し、生産性を高めることにつながる」
「この国から『非正規』という言葉を一掃する――。内閣が代わっても、この目標に向けた取り組みの大切さは変わらない」

「この国から『非正規』という言葉を一掃する」とは、安倍晋三前首相が2018年に使った表現だ。だが、非正規という雇用形態をいまの日本社会から消滅させるのは難しい。朝日社説は政権の言葉を借りているが、どうやって非正規雇用をなくそうというのか。

いまや非正規の労働者は4割近くを占め、その労働力なしに多くの企業は成り立たなくなっている。非正社員をすべて正社員に昇格させ、正社員と同じ待遇(手当や賞与、退職金、企業年金の支払いなど)を施すというのは現実的ではない。仮にそんなことをすれば、非正規の雇い止めが深刻化するだけだろう。それは韓国ですでに起きていることだ。

民間部門の非正規職は増えて、韓国全体の雇用は不安定化

韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領は2017年、「非正規職ゼロ」を打ち出し、政府や公共機関で働く非正規職の正規職化を進めた。しかしその結果、公共部門の非正規職は減ったが、民間部門の非正規職は増えてしまい、韓国全体の雇用は不安定化した。

韓国労働研究院(KLI)によると、2019年8月時点の非正規労働者数は748万人(全労働者の36.4%)で、前年比で87万人も増加した。さらに平均時給が最低賃金水準に満たない労働者数は339万人で、前年比で28万人も増えている。

理想論を振り回すのは簡単だ。たとえ政権が使った言葉だとしても、そこに実効性が伴うかどうかを検証しなくてはいけない。同一労働同一賃金のために必要なのは、本当に「『非正規』という言葉を一掃する」という施策なのだろうか。大いに疑問がある。

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