読書体験は小学校の高学年に集中
【三宅】そんな高嶋さんですが、小説家になられるくらいですから、幼少期から本の虫でいらっしゃったんですか?
【高嶋】僕の読書体験は少し極端で、小学校の高学年に集中しています。小学4年生のとき、いい先生に巡り会えて、図書室の使い方を教えてもらったことがきっかけです。図書室の児童書の棚を端から読んでいったり、家にあった少年少女世界文学全集50冊を繰り返し読んだりしました。
【三宅】素晴らしい読書の原体験ですね。
【高嶋】仲の良かった同級生と競い合って読んでいたことも大きかったと思います。でも、それ以後、小説はほとんど読んでいません。中学は海や山で遊んだり、高校時代は一応受験で勉強一筋です。小説を書き始めた30代の時点でも、古典といわれるような作品は読んだことがなかったんです。
【三宅】では、天性の才能ですね。
【高嶋】小説を書くことが、たまたま僕に合っていたんだと思います。
「なんで英語の勉強をする必要があるんだろう」
【三宅】中学生以降の興味はどんどんサイエンスの方に向かわれて、慶應義塾大学の工学部に進まれています。
【高嶋】当時はNASA(アメリカ航空宇宙局)が人類史上初めて、月に人を送り込んだ時代で、ロケット工学をやりたかったんです。それにいちばん近い分野の流体力学の研究室に入りました。学部生のときはプラズマ物理の勉強をしていました。
【三宅】英語は得意でいらっしゃったんですか?
【高嶋】高校時代の英語の先生が非常に厳しい人が多く、勉強しなかったら、怒鳴られたり殴られたりは当たり前だったので、必死で勉強しました。まずは単語の暗記。一年生のひと夏をかけて、覚えました。だから読み書きはそれなりにできていたと思います。でも正直、「なんで英語の勉強をする必要があるんだろう」とずっと思っていました。英語の必要性がわかってきたのは、大学に入ってからです。
【三宅】理系だと論文がありますからね。
【高嶋】はい。英語の論文を読まないといけないし、教科書も英語で書かれたものがありました。僕はそれを訳して、コピー機を買って友達に印刷させて、大教室の授業で1冊1000円で売ったのですが、飛ぶように売れました。先生は笑って見ていました。呆れていたのかな。
【三宅】それだけ文法や単語がお出来になられたんですね。
【高嶋】読むことはできたのかもしれません。ただ当時の僕の意識としては、「言葉より内容だ」ということが強かったです。研究者の先輩から「発表の内容が優れていれば、下手な英語でも、みんな必死に聞いてくれる」と言われたことを覚えています。これは事実でしょうね。
【三宅】たしかにそうかもしれません。
【高嶋】小説もそうだと思って、日本語をおろそかにしていた傾向があります。最終的に英語での出版が目的でしたから。でも、今では後悔しています。日本の小説は、やはり日本語が大切です。英語に翻訳する場合は、英語のネイティブでなければできないと思っています。