「音楽関係者で英語ができない人はいない」

【三宅】アメリカでは英語でかなり苦労されたのでは?

【高嶋】しましたね。専門分野の講義は何とかわかりましたが、議論には参加できませんでした。授業中に先生の「試験準備に何日に、補講をするよ」みたいな言葉を聞き逃して、試験は散々でした。

英語以上にショックだったのは、教授の授業にもついていけないことでした。理論物理系の授業で、黒板いっぱいに数式を書いていく。2時間の授業を懸命に聞いて、ノートに取って、帰ってノートを開いても1行もわからない。あのころほど必死で勉強したことはなかったですね。日本では「人の倍努力すれば、なんとかなる」と思っていました。でもアメリカで、「努力では超えられない壁がある」ことを知りました。上を目指しすぎたということもありますが、研究者の道は断念せざるを得ませんでした。

【三宅】そうですか。でもアメリカには4年間いらしたそうですから、いつからか慣れたわけですか?

【高嶋】英語はほとんど上達しませんでした。もっと現地の生活にどっぷり浸かっていたらわかりませんが、当時のロサンゼルスは「ジャパン・アズ・ナンバーワン」の時代で日本人だらけでした。現地で元の嫁さんと知り合った関係で、日常生活も日本語を使うことが多かった。だからリスニングは苦手なままですね。

勝手な想像ですけど、語学のリスニングは音楽と関係があると思います。複数の外国語を話す知り合いの元大学教授は、カラオケが大好きで歌もうまい。

【三宅】以前ピアノの先生と対談した際に、彼女が「音楽関係者で英語ができない人はいない」とおっしゃっていたので、音感と言語は関係していると思います。でも音感が弱い人でもリスニングの鍛え方があることは、我々の実績からわかっています。音源を上手く使って声に出す練習をすれば、聞けるようになるんです。

【高嶋】それは正しいと思います。ただ、僕らの時代には、そのような科学的にシステム化された語学教材がなかったですよね。それに語学専用ツールも。だから僕の英語力の低さは、もっぱら時代のせいにしています(笑)。

ここ3年間で思い知った英語の必要性

【高嶋】実は、大学をドロップアウトして、日本に帰る飛行機で「二度と英語はしゃべらない」と心に誓っていたんです。でも、「これからの社会では、絶対に英語が必要だ」と考えが変わっていきました。特にここ3年間で思い知りました。

【三宅】なにがあったんですか?

【高嶋】まずは、グローバル化の進展です。その中で日本が生き残るには、英語は絶対に必要です。それに、現在の僕の夢は、自分の小説をハリウッドで映画化することです。それでハリウッド関係者とやり取りをしたり、コンテンツの英語翻訳をするようになって、再度英語にチャンレンジしています。

【三宅】素晴らしいですね。

【高嶋】アメリカの難民や不法移民の問題を描いた『紅い砂』(幻冬舎)という作品は、ハリウッド映画化を意識して書きました。登場人物に日本人はゼロ、舞台はアメリカと中南米。こういうのは日本ではあまり売れません。出版社に頼み込んで出してもらいましたが、重版はかかっていません。英語版の『The WALL』は自費出版です。アマゾンで買うことができますので、ぜひ。本の宣伝用にトレイラー(映画の予告編のようなもの)も自費で作りました。

【三宅】拝見しましたけど、本当に映画みたいなクオリティですよね。

【高嶋】老後の蓄えを叩いて大勝負をしています(笑)。少しでも世界で受け入れてもらいやすくするためにTed Takashimaというペンネームまで作っています。

【三宅】日系アメリカ人っぽいですね。

【高嶋】それが狙いです(笑)。アメリカ人が書いた、世界を舞台にした小説という体裁です。世界に出ようとすると、英語はやはり大事だとつくづく感じています。