ただ、残念ながら、この年は三洋証券・山一証券・北海道拓殖銀行等が破綻し、財政再建どころではないと、この法案は骨抜きになり、後継の小渕恵三内閣の時、実質廃案となってしまった。

民主党の野田佳彦政権は、東日本大震災に対し、「復興税」という臨時増税を行い、その財源を明確にした。借金が大きくなることへの恐怖、自制心はまだ存在していたのだ。財政危機に対しての警戒警報記事も頻繁に新聞紙面をにぎわした。

ところが第2次安倍内閣の「異次元緩和」発動で、その財政再建の試みはぶち壊しとなった。通常、財政赤字が拡大すると長期金利が上昇し、長期国債市場が「政治家さんよ、そんなにお金をばらまくと長期金利が上昇して景気が失速しますよ」と、大きな警戒警報を鳴らす。しかし異次元緩和で、長期国債の爆買いをするから、いくらばらまいても警戒警報が鳴らない。

ピンク、紫、濃い青空と災害予報の拡声器
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「異次元緩和」の発動で失われた危機感

以前は、財政法第5条で本来発行できない赤字国債を、特別公債法案という財政法の上位法を毎年、成立させ、赤字国債を発行して、急場をしのいでいた。その法案を通すために毎年、与党は首相の首を差し出していたが、今では、一度、この法案を通せば5年間、赤字国債を発行できるようにした。

これでは赤字国債削減への首相のモチベーションは落ちる(第2次安倍政権が長期政権になり得たのも、これが主因だと私は考えている)。

又、「統合政府で考えると、財政は健全だ」という財政楽観論者の存在や「借金を拡大しても財政出動をすべきだ」等の財政出動派の存在が赤字を極大化させてしまった。この結果、第2次安倍政権は、尋常な方法での財政再建を放棄してしまったといえる。

「誰が首相になっても解決策はない。だから臭いものには蓋」

巨額になった借金を解消する手法は「大増税」か「借金踏み倒し」しかないが、大増税を放棄すれば、「借金踏み倒し」しか道はない。

「借金踏み倒し」は歴史的には、しばしば起こる。鎌倉時代・江戸時代は「徳政令」「棄捐令」だったが、今の世の中では、さすがにこのような過激な政策はとれないだろう。となると、実質、「借金踏み倒し策」であるハイパーインフレ策しかない。

1000兆円超の借金は、タクシー初乗り1兆円時代には、実質無きに等しくなるからだ。インフレとは債権者(国民)から債務者(国)への富の移行という意味で、大増税と同じである。したがってハイパーインフレとは国にとっては究極の財政再建策だが、国民にとっては地獄となる。

菅政権は安倍政権を継承するという。実は誰が総理になっても、この機に至っては、継承せざるを得ない。異次元緩和をやめると新首相が発言したとたんにXデーが到来するからだ。