カルビーの革新の要因をどのように求めるべきか

その当時の加工食品には製造月日も付いていたりいなかったりで、製造後何カ月も経った商品が店頭に並ぶことはざらにあった。キャンディーやチョコレートならまだしも、ポテトチップスは違う。鮮度が落ち、油がまわってしまった状態のポテトチップスは、食べられたものではない。運悪くそれを食した消費者は、二度とポテトチップスに手を伸ばしはしない。同社においても、その当時、「店頭で埃をかぶって並べられているポテトチップス」に気づき、鮮度問題が重要な課題だと認識するに至ったというエピソードが残っている(小川進・松尾雅彦『カルビー戦略史』未刊行、09年)。

鮮度をポテトチップス事業の喫緊の課題と見定めたカルビーは、鮮度重視の供給体制づくりに邁進する。まず、営業担当から売り上げノルマをはずし、押し込み営業を禁止した。また、多頻度小ロットの取引を誘導すべく取引制度の改革を開始した。いずれも、当時としては画期的な施策だ。目指すところは、先に述べた実需体制、つまり売れた分だけつくる生産流通体制、そして店頭起点の経営である。

カルビーのこの取り組みの経緯は、図に示すことができる。

流通革新の経緯

ここで想定される経緯とは、「ポテトチップスの市場導入の失敗」「導入失敗の原因としての鮮度問題の識別」、その結果としての「鮮度管理概念の誕生」という因果的なものだ。商品鮮度が管理できていないという原因がまずあり、それが消費者の同商品に対する不人気を招き、そして売り上げ不振という結果につながったというのだ。原因がはっきりしていれば、原因を除去すればよい。

後は、鮮度管理という課題が実現できるかどうかだ。その成否は問題だが、そのことは置いておこう。確認したい点は、「原因があって結果がある。その基になる原因を押さえればよい」という理解、さらには「革新的概念は、ごく自然の道筋、あるいは当然やらなければならない必然の道筋の中で誕生した」という理解の是非にある。「その通り。経営には、何の不自然なこともない。雨が降れば傘をさすことです」という名経営者の言葉が聞こえてきそうだ。

だが、そうだろうか。

図に示すような関係は、原因と結果を一直線につないだ理解だ。同じ原因と結果をつなぐにしても、現実をさらに深く掘り下げれば、もっと曲線的な構図も見えてくる。次は、そうした理解の立場を見てみよう。