積極的に議論されているギリシャの財政再建だが、いまだ有効な策は出ていない。EU全体に波紋が広がり、各機関がそれぞれの思惑を持って動きだす現在、基軸通貨ユーロの行く末を検証する。

元来、EUの中で最悪の水準だったギリシャの財政

政権が代わって、前政権が隠していたことが新政権によって露わにされることによって財政危機に直面している国がある。今、世界経済の中で最もその行方が注目されているギリシャの財政危機の発端は、昨年10月における政権交代によって、新しい政権(全ギリシャ社会主義運動のパパンドレウ政権)が前政権(新民主主義党のカラマンリス政権)による財政に関する統計処理の不備を指摘し、財政赤字の規模を上方に修正したことによる。このような統計処理の不備は、ギリシャの財政赤字の数字そのものの信頼性を損なうだけではなく、財政再建に対する信認をも失墜させることになった。

欧州連合(EU)27カ国各国の財政赤字の推移を示した図を見ていただきたい。ギリシャは、当初のユーロ圏11カ国に2年遅れて、2001年にユーロを導入した。その前年の00年において対国内総生産(GDP)比で3.7%の財政赤字を計上していた。その後も、唯106年に財政赤字が対GDP比で3%を下回って2.9%となったものの、06年を除くと一貫してギリシャの財政赤字は対GDP比で3%を超過していた。また、04年にEU27カ国で最悪となった後、幾分かは財政赤字が改善したものの、07年には、08年に国際通貨基金(IMF)の支援を受けることとなったハンガリーに次いで二番目に財政赤字が大きくなった。08年には対GDP比で7.7%の財政赤字となり、EU27カ国の中で最悪となっている。

そもそも欧州委員会が、他のユーロ圏諸国と同様に、ギリシャに適用したはずのユーロ導入を認めるための収斂条件が、EUの経済・通貨同盟を規定したマーストリヒト条約の下で決められている。その収斂条件として、(1)インフレ率(過去1年間、消費者物価上昇率が最も低い3カ国の平均値+1.5%以内であること)、(2)為替相場(少なくとも2年間、為替相場が為替相場メカニズム(ERM)の許容変動幅内にあって、切り下げがないこと)、(3)金利(過去1年間、インフレ率が最も低い3カ国の長期金利の平均値+2%以内であること)のほか、(4)財政赤字と政府債務(GDPに対して財政赤字が3%以内であり、GDPに対して政府債務が60%以内であること)がユーロ導入のために必要であった。

これらの収斂条件の中の(4)財政赤字と政府債務について、前述したように、ユーロ導入の前年の00年において、ギリシャの財政赤字の対GDP比が3.7%であった。さらに、その政府債務が対GDP比で114%もあった。財政赤字について対GDP比3%以内、そして、政府債務について対GDP比60%以内という収斂条件をギリシャは当初より満たしていなかった。この収斂条件に厳密に従えば、ギリシャは01年にユーロを導入することは難しいはずであった。

金融危機の影響でEU全体が財政赤字を拡大

一方、EUは、財政規律を重んじて、ユーロ導入後も「安定成長協定(Stability and Growth Pact)」によって各国が健全な財政運営を実行するために、各国政府は財政規律の遵守を求められている。欧州委員会および閣僚理事会は、ユーロ圏諸国の財政状況を相互に監視するための手段として、「安定計画」の策定をユーロ圏諸国に義務付けている。その「安定計画」に基づき、欧州委員会および閣僚理事会は、各国の財政状況を調査し、過剰財政赤字と判断された場合には、過剰財政赤字手続きが適用される。

過剰財政赤字手続きについて、欧州委員会および閣僚理事会が過剰財政赤字と判断した場合には、是正勧告が出される。もし勧告に従わない場合には、制裁措置が当該国に適用され、財政赤字が参照値のGDP比3%を超えた度合いに応じて、GDPの0.2%から0.5%までの制裁措置が科される。当初は無利子の預託金という形をとり、2年経っても超過財政赤字の状態が是正されない場合には、罰則金として預託金が没収されることになる。このようにペナルティ付きの厳しい財政規律遵守ルールを作って、財政規律を求めているものの、ギリシャはほぼ一貫して対GDP比3%の財政赤字を遵守することができずにきた。