自己革新できなければ他者から潰される

2009年6月1日、GMの国有化発表。ドラッカーは1999年にも「私が100歳になるときGMは存在していないだろう」と予言していた。

2009年6月1日、GMの国有化発表。ドラッカーは1999年にも「私が100歳になるときGMは存在していないだろう」と予言していた。

対してドラッカーのマネジメント思想をいち早く取り入れたのが日本の自動車メーカーである。分権化、イノベーション、従業員の経営参画といった考え方は、労使協調を基盤にした家族的な日本の経営スタイルと親和性が高く、日本の製造業は大いに強化された。

GMの場合、UAW(全米自動車労組)の持つ力が大きく、UAWが求めた従業員や退職者の医療費や年金などが重い財務負担になった。経営陣がUAWの過剰なまでの要求を受け入れてきたのは、ストライキを起こされて工場のラインが止まるのを恐れたからだ。

一方、たとえばトヨタでは現場の工員が異常や不具合を感じたら、作業工程ごとに設置された紐を引っ張って異常を知らせる仕組みがあり、時にはラインを止めることもできる。有名なトヨタの「アンドン」である。スピード感をもって高品質の製品をつくり出すためには、問題が起きたらその場で解決することが重要であり、そのためのリーダーシップが現場に与えられているのだ。ラインを止めたらクビになるアメリカの製造業との決定的な違いである。

GMも後になってカイゼンやQCサークルなどのトヨタ生産方式を学んだ。しかしそれが企業文化となって組織に根付くのには時間がかかる。GMにおいては時間切れだったのだろう。

1990年代初頭、トヨタもまたGM同様に組織が巨大化し、特に研究体制が内向きに官僚化してしまったことがある。そこに風穴を開けたのがプリウスだ。

同社の「21世紀のクルマ」開発プロジェクトで当時チーフエンジニアだった内山田竹志氏(現・技術担当副社長)は、燃費効率1.5倍という革新的なガソリンエンジンを提案した。ところが、担当役員から「技術者にとって1.5倍はすごいのだろうが、一般の人にとっては中途半端。2倍にしなさい」とはねつけられる。ガソリンエンジンではどんなに研究しても二倍には届かない。困り果てた開発陣が行き着いたのがハイブリッドエンジンだった。

ドラッカーは「企業は社会的存在である」と説いている。世界で初めてマスキー法(米国の排ガス規制法)をクリアしたホンダのCVCCエンジンやトヨタのプリウスは、ビジネスの次元を超え、人類の持続的な成長という社会的見地から生み出された技術、商品にほかならない。

「2倍の燃費効率」というあるべき論からスタートしたプリウスは、まさにトヨタの不断の自己革新の象徴。割に合わないからとマスキー法へのチャレンジを怠り、電気自動車の開発もすぐに諦めたGMとは対照的だ。

ドラッカーの同郷の先輩で経済学者であるシュンペーターがいう「イノベーション」とは単なる「技術革新」ではない。「創造的破壊」である。創造的破壊ができない企業に未来はない。自己革新できない企業はコンペティターに潰されるか、今回のGMのようにマーケットや政府からレッドカードを突きつけられるのだ。

※すべて雑誌掲載当時

(構成=小川 剛)