●鉄則1:相手の立場に立って考える

莫大な借金を背負った債務者は、破産申請してしまえば債権者が自由に財産を処分できなくなることを知っている。犯した罪が重いとき、犯人が死刑を覚悟してしまうと、容易に自供しない。債権回収の現場でも、取調室でも、相手が居直ってしまうとコミュニケーションの目的は達成されない。

悲観的な考え方をするギャンブラーは、負けが込むと絶望にかられ衝動的になり、一か八かの大勝負に出る傾向が高いという研究結果がある(*注2)。

債権回収と警察のプロの人たちに、仲良しコンテクストと対立コンテクストの状況で、自分がどんな感情を感じるかを評価してもらったところ、日本で有数のC型コミのプロですら、対立コンテクストでは、緊張と不安が2~4倍倍も高まることがわかった(*注3)。

彼らと対立している債務者と被疑者は不利な立場にあるため、さらに緊張と不安は大きく、おまけに悲観的になっているはずだ。負けが込み、やけを起こしたギャンブラーの心境に近くなっている。

債権回収と警察のプロは共通して、対決カードをやたらと切ってはいけないと言う。

刑事歴30年のベテランは「何日も口を利かない暴力犯を取り調べたことがある。ある寒い朝、彼がずっと着の身着のままであることに気付き、黙って温かい衣服を渡したら、翌日から素直に取り調べに応ずるようになった」というエピソードを披露した。

債権回収で辣腕をふるった銀行家は、「三途の川を渡るところまで見届ける」ことを信条にしている。企業が倒産に瀕したとき、善意の経営者は長年働いた従業員の給与だけでも、倒産を前に払ってやりたいと思っている。給与の支払いに充てる資金を貸すと、恩義に思った経営者は、融資してくれた銀行に対して債権回収に協力してくれるようになるという。ともに、C型コミにおいて、相手の立場に立つことの大切さを物語っている。

しかしC型コミのプロたちが対決カードを出さないのではない。C型コミのプロたちは、対決の場面で、相手を「おそれさせ」「恥ずかしい思いをさせ」「罪悪感を抱かせる」行為を仲良しコンテクストに比べて2~4倍の頻度で行っていることがわかった。太陽だけでなく、北風も吹かせている。しかし相手の立場に立って考えずに、北風だけを吹かせると、プロではなく、単なる感じの悪い人になってしまう。