マスクを着けていないと、外出もできない状況になった

WHOや厚生労働省は20年ほど前から、H5N1型の鳥インフルエンザウイルスが変異して毒性の強い新型インフルエンザが発生すると、「世界で7400万人、日本国内で17万~64万人が感染死する」と警告してきた。しかし、日本は危機感が鈍く、通勤ラッシュの満員電車の中でマスクも着けずに平気で咳やくしゃみをする人が多かった。

ところが、である。いまは新型コロナウイルスが感染拡大した結果、マスクを着けていないと、外出もできない。外も歩けない。状況が大きく変わり、振り子が反対方向に大きく振れている。

以前にも書いたが、1万分の1ミリという極小のウイルスは、野外では風に吹かれてあっと言う間に拡散してしまい、感染など成立しない。緊急事態宣言中に神奈川や千葉の県知事が「海に来ないでほしい」などと呼びかけていたが、海岸は陸風海風と常に強い風が吹いていてウイルスはすぐに消える。野外でのマスクは実におかしな話だ。熱中症の危険もある。

要は過剰反応なのである。感染に対して神経質になれば、オキシトシンなどのホルモンの分泌を妨げ、私たちが本来持っている「自然免疫」を弱めてしまう危険性もある。

新型コロナウイルスのような新興感染症に対しては、感染の拡大を食い止めて重症者や感染死をなくす努力は必要不可欠である。だが、ニュースが毎日伝える感染者の増減に一喜一憂していたのでは、精神的にも肉体的にももたない。

読者の不安を刺激しながら、政府批判につなげたいという思惑か

8月2日付の朝日新聞の社説は、「コロナ全国拡大 危機回避へ具体策を」との見出しで、「新型コロナウイルスの感染拡大が止まらない」と書き出す。さらにこう指摘する。

「東京から地方へ。若者から中高年へ。接待を伴う飲食から一般の会食や職場、家庭へ――。感染経路が不明の例も増え、事態は新たな局面に入ったと見るのが自然ではないか」

書き方は実にうまい。しかし、立ち止まって考えたい。「事態は新たな局面に入った」と指摘するが、前述したように新型コロナウイルスは私たちにとって遭遇経験の少ないウイルスで、大半の人に獲得免疫がない。だから緊急事態宣言などで感染拡大を抑えても、感染は必ず再び拡大する。欧米の感染再拡大を見れば、よく分かるはずだ。

一般的に新興感染症は6割の国民に獲得免疫ができてはじめて終息する。これが集団免疫の考え方である。この朝日社説を執筆した論説委員も分かってはいるはずだが、読者の不安を刺激しながら、政府批判につなげたいという思惑がうかがえる。