上司の俺が会社で、なんで部下は家なんだ

――在宅勤務だと部下の行動が見えづらく、仕事の進捗状況が把握できずにとまどう管理職も多いと聞きます。

【建設さん】じつは自粛期間中に出社率が高かったのは管理職。とくに部長以上の幹部クラスが多かった。本人は「こんな大変なときだからこそ自分が出社しなければ」と言っていた。今も管理職の出社率は高い。責任感の強さはわかるが、会社に来ないと部下の仕事ぶりがわからないので不安なのかと。

【サービスさん】ある部署を覗いたら、課長がぽつんと1人だけ座ってPCに向かってぶつぶつつぶやいている。聞いたら毎日Zoomで朝礼と終礼を30分ずつやっているそうだ。気持ちもわからなくはないが、1日1時間、週5時間、月20時間も費やしていることになる。ムダとは言わないが、本当に必要な会合なのか吟味する必要がある。

【広告さん】今は出社制限があるから大きな声では言えないが、管理職としては「俺が出てきているのに部下はどうして出てこないんだ」と心の中では絶対思っている。とくに日頃から働かないオジさんも出てこないし、家で遊んでいるか、寝ているんだろうと、余計に腹が立つ。50歳以上の管理職に多い。

上司の俺が会社で、なんで部下は家なんだ
イラスト=辛酸なめ子

【建設さん】当社は決裁に印鑑が必要になる。担当者、担当課長、担当部長の3つの印鑑がないと決裁が下りない。しかもその印鑑は総務部に登録しているハンコでなければいけないが、在宅勤務中はデータ印でもよいことにした。でも最終的には原本に印鑑を押して保管する必要があるが、当然、最終決裁者の管理職が一番多く印鑑を押しまくることになる。出社しても部下がいない中で、なんで俺がこんなことばかりやっているんだと頭にきている人もいる。

【広告さん】もう1つの管理職の悩みは部下の行動プロセスが見えづらいので人事評価がやりにくいことだ。営業職は数字や成果による評価が大部分を占めるので多少はいいが、それ以外の人事・経理・総務などの管理部門やマーケティング、制作部門は、成果以外の行動評価や行動プロセス評価も重視している。部下が「コミュニケーションを取りながら周りと連携して仕事を進めていた」「後輩の育成・指導を熱心にやっていた」といった項目は、在宅勤務に入ってから見えづらくなった。

【サービスさん】以前は部下の仕事ぶりを見れば大体わかった。定時前に出社して仕事の準備をしていると「おっ、がんばっているな」と思ったし、ギリギリに出社すると「なんだあいつは、やる気があるのか、ダメだな」と観察できた。また、飲みに誘っていろいろ話を聞いて、がんばり具合を確認することができたけど、今は飲みニケーションすらまったくなくなった。

【ITさん】それって逆に言えば日頃の管理職のコミュニケーションの質が炙り出されているような気がする。管理職にも2つのタイプがいて、日頃からコーチングの勉強をしてワンオンワンの面談をやっていた管理職はWebの面談やZoom会議に移行しても全然大丈夫だよ。逆に昔ながらの「俺の背中を見て学べ」というコミュニケーション下手の管理職は結構きつい状況になっている。各部門にヒアリングしたり、クレームを聞いているうちによくわかってきた。実際に部下とのコミュニケーションがうまく取れない管理職がいる課とそうでない課との組織の成果もはっきり出てきている。

【建設さん】じつは人事部の一部では19年の後半から東京オリンピック時のテレワークを想定し、個々の部員の仕事のスケジュールと情報をネット上で共有化し、週1回のミーティングで進捗管理を行う仕組みをトライアルでやってきた。夏の暑い時期だし、家でビールを飲みながらテレビでオリンピックを観戦したいだろうからね。延期になったけどね(笑)。

【広告さん】在宅中の仕事の基本は、課で取り組むタスクの一覧をつくり、タスクの目的とゴールを共有し、タスクの目標が部員一人ひとりの目標に紐付いていること。いつまでに何をやるかというタスクの目標の進捗状況を事前に記録し、週1回の会議で部員同士や上司が確認しあい、困っていることがあれば皆で議論することだ。もちろん途中で誰かに相談したい場合は躊躇なくチャットで連絡し、相談された相手が忙しいときは「1時間後に連絡をくれ」と、必ず代案を出すなど、管理職がリードして細かいルールをつくって徹底することだ。

【建設さん】それが徹底できない管理職も多い。仕事の進捗状況や個々の成果を在宅勤務であっても把握できるかどうかが鍵を握る。人によって報・連・相がうまいか下手か、業務遂行力などの能力発揮のレベルも見えるだろうし、それに対する管理職の指導力もわかるはず。それができないのは、今までちゃんと管理職が指導してこなかったツケが露呈しているんだと思う。