部下のやる気を下げているものとは

管理職業務の大半はルーチンワークであり、「意思決定」はわずか21%
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管理職業務の大半はルーチンワークであり、「意思決定」はわずか21%

したがって人事や管理職から“部下のモチベーションをいかに高めるか”という問いがよく出るが、部下のモチベーションはもともと高い、というのがミンツバーグの組織論の前提だ。

彼に言わせれば、部下はやる気を持っている状態で職場にやってくるが、様々な“障害”によって――たとえば働く人の人間性を無視した変な上司や経営者、間違った組織のつくり方で――それを損なっていく。

ミンツバーグであれば、モチベーションを低めていく要素をいかに取り除くかがモチベーション・マネジメント上で一番必要だと答えるであろう。実際、ミンツバーグはマネジャーに求められる「10の役割」の一つに「障害除去者」という役割をあげている。マネジャーは部下がモチベーションを下げている要素を自分の責任として考えるべきだというのだ。

組織を預かっているのが自分なのだから、組織や管理がいかに人の邪魔をしないかを考える。組織を正常に戻し部下が本来持っているモチベーションを開花できるような環境をつくり上げることで、組織全体の機能も当然上がっていく。両者がフィードバックしあう自然な流れを回復させると言ってもよい。結果、個人だけではなく組織にとっても長期的な成長を見込むことができる。

さらに具体的な事例を考えていこう。部下が何か新しいことに取り組もうというとき、ミンツバーグならば、マネジャーに対しては、隠れた形でアシストするようにアドバイスするであろう。部下が前に進もうとするときの障害となりうる、組織上の問題点を一つひとつ、なるべく本人に気づかれないように取り除くべきだ、と。

「上司がやってくれたから俺ができた」

という感覚を部下が認識してしまっては元も子もない。あくまで「自分の力でできたんだ」と部下が達成感を感じられる「自己能力の開示、開花」に持っていくのが理想的ではないか、と。マネジャーは陰で障害を取り除きつつセルフエスティーム(自己有能感)を与えるのである。

そのため指示の出し方でもダイレクトに出すのではなく、「あの案件どうなった」といった形で部下に自然に聞く。壁に当たっているようだったら「自分だったらこうする」といったような部下が自分で前に進んでいけるような自然なアドバイスの仕方をする。こうした形を築き上げていくには、普段から部下のことをきちんと観察し把握しておき、信頼関係が存在していることが大前提になる。

冒頭でも述べたように、ミンツバーグの組織論・管理論は極めて日本的であり、国際競争のなかで日本が強かった部分を強調する。

企業は、いい頭(戦略)が強い足腰(組織)についていないといい方向に機能しない。

企業にとってはいい頭も強い足腰も必要だが、強い足腰をつくるためには、組織と人との常識に立ち返るというのがミンツバーグの議論の基本を貫くものであろう。

※すべて雑誌掲載当時

(構成=松山幸二)