脱会社依存のキャリアの近道は、今の会社への依存

「会社に依存しないキャリア形成」、すなわちジョブ型人材になるためには、値札がつくだけのスキル、余人をもって代えがたいスキルというものを身につける必要がある。それも自己評価ではなく、「あの人にこれをやらせたら大したもの」と複数の第三者に証明してもらえることが重要だ。

有名大学院や大学卒業は肩書にはなるが、値札にまで影響するかどうかは疑問。私が推奨したいのは、会社の中で実践を積んでスキルを身につけることである。

たとえば「今、こんなことをいろいろな会社がやっている。ウチでもやりましょうよ」と会社に提案してイニシアチブを握って進める。今ならロボティック・プロセス・オートメーション(RPA)など事業プロセスの自動化技術は、どこの企業も関心度が高い。

RPAを社内に導入するとなれば、今までと違ったスキルを身につけなければならない。しかし、アシストしてくれるツールはいくらでもある。それを会社に埋め込んで、たとえば今まで7人でやっていた業務を3人でできるようにする。1度実績をつくれば隣の部署にも提案しやすくなるし、もっと大きな部署への導入を任されるかもしれない。そうして会社にいる間に自分から仕掛けて、客観的に測定できる実績を積み上げるのだ。

「RPAで3つのプロジェクトを成功させた」というのは、完全な値札である。RPAで年収500万円の人員を10人削れれば5000万円のコストダウン。さらに、その10人分の新しい仕事を見つければ、効果はその何倍にもなる。「年収1000万円+成果報酬ボーナス」でプロジェクトリーダーに迎えてもお釣りがくる。

いまだ使い勝手の定まらないリモート会議を改善した。簿記の延長のような経理を完全オンライン化して、在宅でも出張経費の計算ができるようにした――。そんな物語をつくることが、ジョブ型人材への近道なのだ。

「会社に依存しないキャリア形成」をしたいなら、まずは会社にべったり依存することだ。日本の会社は生意気な提案をしてもクビにならないし、失敗しても致命的なダメージにはならない。会社を練習台に使わせてもらってスキルを身につけ、他人に示せる実績を積む。会社でそれが認められれば出世するだろうし、認められなくてもそれをお土産にすれば引く手あまたの値札がつくのである。

(構成=小川 剛 写真=PIXTA)
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