コロナに感染したらクビにするぞ

コロナ感染を防止したい気持ちはわかるが、明らかな過剰反応だ。こういう時期だからこそ従業員の生活や健康を大事に考えてほしいもの。しかし実際は、組織やわが身を守るためになりふりかまわずに排除する経営者に豹変ひょうへんする。

筆者の近所にも会社を60歳定年後、再雇用の有期契約社員として働く男性がいる。勤務先の社長に「コロナに感染したらクビにする」と言われたと、男性の妻から聞いた。それ以来、男性は出勤以外、一歩も出ることなく自宅にこもり、月1回家族そろって出かける外食も、男性だけ自粛しているそうだ。経営者が神経過敏になると、真面目な従業員は日常生活でもストレスフルな生活を余儀なくされる。

在宅勤務でメンヘラになる上司

経営者に限らない。在宅勤務が続き、部下の仕事ぶりが見えない不安から異常な行動に走る上司もいる。サービス業の課長は部下が在宅勤務になってもほぼ毎日出社。朝から個々の部下のやるべき仕事をメールで発信するだけではなく、定期的に電話をかけてきては進捗状況を確認しているという。それ以外に全員との朝礼と終礼をオンラインで毎日行っている。

同社ではグーグルカレンダーやアウトルックを使って部下の動向や仕事の進捗管理を行うように周知しているが、それだけでは不安なのだろう。さすがに部下からは「上司から監視されているようでたまらない。しかも必要のない電話や朝礼などに時間を割かれ、仕事がはかどらない」という不満の声も出ているという。

ちゃんと仕事をこなしている部下からすれば「仕事を妨害する上司」以外の何者でもない。迷惑千万な話だ。在宅勤務中の社員のヒアリングを実施した同社の人事部長はこう語る。

「日頃から部下とのワンオンワンのミーティングなどコミュニケーションを密にとっている上司は在宅勤務でも支障なく、部署の仕事をこなしている。逆に日頃から部下の面倒をあまり見ることなく、適当に仕事を任せっぱなしにしたり、部下との信頼関係が構築できていない上司ほど焦って、頻繁に連絡を取るなど時間を奪って部下を追い込んでいる。結果的に部署の成果も上がらないどころか、残業時間も増えるなど、上司のマネジメント力が組織成果に歴然と表れている」

コロナ禍の在宅勤務が管理職としての資質を炙り出している。同社は管理職層に「リモートワークのマネジメント術」といった研修も検討しているそうだが、はたしてそれで変わるのかどうか疑問だ。