こうして人間の集団は、時代とともに平均化されていくのです。もしそうでなければ、いまごろ地球上は、優秀な人間と優秀ではない人間に二極化されているはずです。現にそうなっていないことは、いうまでもありません。

私には医学部の同級生が120人いますが、どんな子どもが生まれたかは本当にさまざまです。生まれて来た子どもたちがきょうだい揃って秀才で、有名私立中学へ全員行った家庭もありますし、とくに受験などはせずに地元の公立中学へ行っている家庭もあります。

親が国立大学の医学部を卒業しているからといって、子どもが優秀とはまったく限りません。遺伝子とは、生命の設計図ですから、あるお子さんのIQが幼少時からとても高かったら、それは遺伝子のおかげでしょう。でも遺伝のおかげではありません。そのご両親のIQが高いとは必ずしもいえないのです。

生命は設計図通りにならず、環境の影響を受けやすい

いま、生命の設計図という言葉を使いましたが、じつは生命というのは設計図通りにはことが運びません。遺伝子は、設計図通りに読み取られるとは限らないのです。

環境の変化に応じて、図面を超えて遺伝子が働くことを専門用語でエピジェネティクスといいます。こうした現象はかなり以前から遺伝子研究者にとっては常識でした。エピジェネティクスとは、「遺伝子のさらに上」みたいな意味です。

少し専門的な話になりますが、人間の体を構成している細胞のなかにはすべて同じ遺伝子が入っています。ところがある細胞は神経になり、ある細胞は筋肉になります。なぜでしょう?

それは細胞によって働く(読み取られる)遺伝子が別々だからです。遺伝子にメチル基という物質がくっつくと、遺伝子が読み取られるスイッチにオン・オフが入ります。これには環境などの影響が大きく、これがエピジェネティクスのメカニズムです。

双生児研究はこれからも続くと思いますが、遺伝子と環境の相互作用に関してはさらに解明されていくでしょう。子育て法や教育により、子どもの持つどんな可能性がオンになるかは変わるのです。

「トンビが鷹を生む」子どもの能力は誰にも分らない

諺に「トンビが鷹を生む」といいます。また「うりの蔓に茄子はならぬ」ともいいます。どちらが真実でしょう?

答えはもちろん両方です。平凡な両親から優秀な子どもが生まれることもあるし、優秀な両親からやはり優秀な子どもが生まれることもあります。つまり、子どもの能力なんて誰にも分からないということです。

私には30年来親友のY君という小児科医がいます。Y君夫婦には、二人の娘がいます。二人とも学校の成績が大変いいのですが、それを生かした人生というものはまったく考えていないようです。