親のIQと子どものIQは関係ない

では、IQはどうでしょう。一卵性双生児では、一致率は0.72です。そこそこ一致していますね。二卵性双生児では、0.42です。半分ではありません。遺伝子の一致率50%に従えば、二卵性双生児の一致率は、0.72の半分である0.36になるはずです。ところが、実際は0.42ですから、ギャップがあります。これは環境の影響です。

知能指数の「ある部分」に関しては、遺伝子で決まりますが、指紋ほどではありません。そして同時に環境の影響もあるわけです。

さらに重要なことは、こうした知見は「きょうだいのIQが似ているのは遺伝子の影響がある」ということに過ぎず、「親のIQと子どものIQが似る」ということとは関係ないということです。下記でそのことを詳しく説明します。

そもそも「遺伝子は遺伝しない」

そもそも、遺伝子と遺伝は関係ありません。遺伝子とはDNAに刻まれた文字のことです。遺伝とは、親の性質が子どもに伝わる(似る)ことをいいます。

私の専門の小児がんでは、がん細胞のなかに遺伝子の異常がよく見つかり、またそれによって治療方針を決定します。こういう説明をすると、保護者の方に、「親の遺伝子が子どもに遺伝したんですか?」とよく聞かれます。そうではありません。

英語では遺伝子をgene(ジーン)といい、遺伝をheredity(ハレディティ)といいます。語感が全然異なるため、英語圏の国では遺伝子異常について医師が説明しても、それが親から子に遺伝するとは保護者は即座に思いません。

小さな娘の頬っぺたに両側からキスをする両親
写真=iStock.com/pondsaksit
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人間のIQを決める遺伝子は一つではありません。いくつもの、数え切れないくらいたくさんの遺伝子の共同作業で、人のIQは決まります。

もし、お父さんもお母さんもIQが高いとしましょう。しかし、二人のIQ遺伝子は全然別の種類のものが山ほど働いているはずです。お子さんが生まれるとき、そういった遺伝子はシャッフルされますので、「IQが高い」という性質を受け継ぐ保証はまったくありません。

優秀な夫婦の子孫が優秀とは限らない

大人数の人間の集団を観察するとしましょう。そのなかに優秀な夫婦がいるとします。優秀とは何ぞやという問題がありますが、それはおくとして、ここで優秀な夫婦という存在を仮定します。その子どもが生まれます。

その子は、またも優秀な異性と結婚します。そういうことをくり返していくと、超人みたいな優秀な子孫が生まれるかというと、それはじつは逆です。優秀な性質は段々薄まっていき、平均値に近づいていくのです。

まったくその逆のことも起きます。優秀でない家系同士が結婚をくり返していくと、優秀でない性質は段々薄まっていき、平均値に近づいていきます。