習近平を国賓にする安倍が中国非難声明の取りまとめる矛盾
台湾はかつて、国際社会から見放された経験を持つ。それは蔡英文からすれば清算すべき過去の蒋介石政権の産物(自身こそ中国大陸政権の正統な後継者とし、大陸の統治権をも主張→中華人民共和国が国連加盟、中華民国はこれを不服として脱退、多くの国が中国と国交を結び、中華民国とは断交した歴史)ではあるが、大国の論理で次々に国交を断たれた台湾の足跡を蔡英文は嫌というほど知っている。だからこそ、いま中国に飲み込まれようとしている香港の姿を前に、リスクを承知で手を差し伸べようとしているのだろう。〈北京当局の機嫌を取るために、香港の若者たちを犠牲にするべきではありません〉との一文に、その思いがこもっている。
蔡英文の姿勢が奏功するかどうかは、ひとえに国際社会の姿勢にかかっている。
安倍総理はG7での中国非難声明の取りまとめで主導的な立場を目指すと明言しているが、親中姿勢のドイツやイタリアを説得することが可能だろうか。中国からは即座に「重大な懸念」が表明されている中、今もって習近平の国賓来日を模索している日本である。二重の意味で主導的な立場を取るのは、実際には相当難しいだろう。
アメリカと英国が責める、中国の矛盾
香港のかつての宗主国・イギリスのボリス・ジョンソン首相は、「英国海外市民(BNO)旅券に申請する資格を持つ全ての香港市民(300万人)に対し、延長可能な12カ月の滞在許可を出す」と述べた。
これに対し中国は「イギリスは冷戦時代のメンタリティーと植民地時代のマインドセットを捨てろ」「香港は中国に返還されたという事実を認識し、尊重せよ」(中国外務省の趙立堅報道官)と述べている。
アメリカの暴動でも焦点の一つとなっている過去の歴史の「汚点」をさかのぼって糾弾しようという風潮に乗った中国側の言い分に、理がないわけではない。だが、事実を尊重せよというのであれば、「返還から50年は一国二制度を保つ」とした英中間の約束もまた、守られなければならない。