トランプによる「米軍派遣」の本当の狙い

何故、トランプ大統領はメディアや反トランプ関係者から批判が出ることを承知で、米軍の派遣を示唆するコメントを行ったのであろうか。その理由を理解するためには現代の米国における政治対立の文脈を踏まえる必要がある。

米国では現職大統領や連邦議会多数派の連邦政府運営者と州知事・市長らの地方政府運営者の間に党派の違いが生じることで深刻な社会的分断が発生しがちである。

2020年現在の政治対立は、「連邦政府(ホワイトハウス・連邦上院)=共和党」、「地方政府(大都市の州知事・州都の市長)=民主党」という構造を背景としている。したがって、トランプ大統領や米国共和党がNY州・カリフォルニア州・ラストベルトなどの民主党が強い地域の地方政府と社会問題の解決方法を巡って政治的な刃を交えている状況となっている。

共和党は建国の理念を重視する政党であり、合衆国憲法の教条主義的な遵守、そして法と秩序の維持を掲げる政党だ。地方分権的な性格を強く持つ政党ではあるが、同時に安全保障や司法関係については強い中央集権的傾向を持つことにも特徴がある。共和党は対立する民主党を「合衆国憲法を不当に解釈し、法と秩序を乱す存在」として批判している。

テレビのコメンテーターは頓珍漢なのか

そのため、2020年大統領選挙・連邦議会議員選挙に際して、トランプ大統領と共和党は民主党が支配する地方政府で起きている法と秩序の崩壊が米国の連邦政府全体で発生しても良いのか、というメッセージを米国市民に提供している。このメッセージを理解しないと共和党側の主張内容は理解できず、トランプ政権の意図について頓珍漢な解説しかできないだろう。

ここで、読者の理解促進のために、幾つかの具体例を挙げてみよう。

トランプ大統領及び共和党が民主党による法と秩序への破壊として取り上げる象徴的な問題は不法移民問題である。不法移民は合衆国憲法に忠誠を誓っておらず、法と秩序を犯す象徴的な存在だ。したがって、共和党は不法移民に対して強硬な姿勢を示してきた。特に民主党が支配するリベラルな都市は不法移民に甘い「聖域都市」と呼ばれており、不法移民を収監しても直ぐに解き放ってしまう等の問題が指摘されている。トランプ大統領は聖域都市に対して、不法移民に対する処置を是正しない場合は連邦政府からの補助金を停止する大統領令に署名しており、国境管理の法と秩序を取り戻すことを主張している。