現在の中国で「K-POP」が流行らない原因

それは中国を訪れる人も例外ではない。たとえばK-POPのアーティストが中国に行ってコンサートを開くとしよう。主催者は、アーティストがどの曲をどういう順番で歌うか、当局にすべて事前に報告する義務がある。報告したものと違う曲を歌ったり、別の内容の言葉をステージの上で話すと、韓国のスターによる公演そのものが要注意と見なされる。政治的な発言はもちろん、予定されていない内容をアドリブで口にすることも許されないのだ。

中国国内をあちこち巡回しながら、コンサートを10回開くとしよう。1回2回のコンサートだけでなく、すべての公演が当局のチェックを受ける。中国のルールに従わなければ、コンサートを自由に開くことすらできない。それが中国の断固たる態度だ。

かたや韓国は自由な国だから、韓流スターはそうした中国のやり方に反発する。実際、過去に事前に伝えていなかった曲を歌ったグループがいたため、現在の中国ではK-POPはほとんど流通していない。自由主義国家では当たり前のことが、あの国では厳禁なのだ。

「サイバー監視員」に話を聞いた

13年、中国共産党中央宣伝部(China’s propaganda department)の責任者が、にわかには信じがたい数字を発表した。北京だけで、なんと200万人以上もの監視員が「微博」などのSNSやネット上の書きこみをチェックしているというのだ。もちろん人口14億人の国だけに検閲のための人員がこれだけいても不思議ではないが、驚くべき数だ。

NYタイムズは、そのうちの1人にインタビューすることに成功した(19年1月2日“Learning China’s Forbidden History, So They Can Censor It”)。その人は、北京にあるBeyondsoft(博彦科技)というIT企業でパートタイマーとして働いている。Beyondsoftは中国政府の下請けとして仕事をする検閲専門会社だ。

検閲の従事者たちは、職場に自分のスマートフォンをもちこむことが禁止される。入り口を通るとロッカーがあり、私物はそこにしまわなければならない。スマートフォンのカメラ機能で、内部の写真を撮られることを阻止するためだ。中で何が行なわれているのか、写真や動画による情報は外部に漏れない。まるで病原菌やウイルスの流出を防ぐように慎重に情報保全に努める。

今の若い世代には、1989年6月4日に起きた天安門事件についてまったく知らない人もいる。「天安門」「六四」といったキーワードが要注意であることなどを研修で学びながら、人海戦術によってどんどん検閲を進めていく。勤務時間は1日6時間あり、1カ月350ドル(3万8000円)から500ドル(5万4700円)の賃金が支払われるそうだ。