なぜ、甲子園球場をタダで使えるのか?

一方、「支出の部」にも、当然あるはずの費目がない。「会場(甲子園球場)の使用料」が含まれていないのだ。大会にかかわる警備の費用などは主催側が負担しているが、使用料は0円。

甲子園球場が使用料を求めないのは、昔からのしきたりや「野球振興に貢献したい」という思いがあるからだといわれる。しかし、球場内の飲食などの収入はきっちり球場側に入る仕組みになっている。甲子園名物の「かちわり氷」は1日に100万円ほどの売り上げがあり、その他の飲食代も大きい。インターハイでは販売されていないアルコールもかなりの売り上げがあるはずだ。

阪神甲子園球場
写真=iStock.com/bee32
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こうやって見てくると、甲子園大会の主催者は、日本学生野球憲章に定められている「学生野球、野球部または部員を政治的あるいは商業的に利用しない」ことを徹底する一方で、「野球部の活動は、部員の教育を受ける権利を妨げてはならず、かつ部員の健康を害するものであってはならない」ことに関して、ほとんどスルーしていると言わざるをえない。

一方、主役の球児たちは、旅費・滞在費(1日1人4000円)の補助を受けている。その他、スタンドを埋め尽くす大応援団の旅費などは、主に保護者や学校関係者がかき集めたお金が使われる。野球以外の全国大会でこのような組織的応援はみられない。

夏の甲子園で得たチケット代、放映権料をスポーツ界に還元しよう

「カネ儲け=悪」という考え方は前時代的すぎる。高校野球をうまく“運用”することで、「新たな価値」がたくさん生まれると筆者は考える。大いに参考とすべきなのは、アメリカだ。

全米1100校が加入するNCAA(全米大学体育協会)はお金集めがうまい。24種のスポーツで90にのぼる選手権を開催。なかでもアメフトとバスケは熱狂的な人気があり、日本の甲子園大会のような特別なコンテンツになっている。

NCAAはアメリカで放映権を持つ二大ネットワークのCBSとターナーに対して、2010年に14年間で108億ドル(約1兆1626億円)という日本では考えられない高額契約をかわしている。ほかにも試合の入場料で年間100億円以上も稼ぎ出しており、これらの収益は各競技運営や、各大学に分配というかたちで学生の競技や学業に還元されている(別の言い方をすると、アメフトやバスケなど人気種目はあまり人気のない種目に大きく貢献している)。

甲子園の人気を考えれば、チケット代を値上げしても観衆は入るし、莫大な放映権も期待できる。関係者が甘い汁を吸うようなことのないよう監視するために収支を完全に透明化した上で、その収益を野球だけでなく、他の高校スポーツにも還元する仕組みを作ることができれば、甲子園大会は本当の意味で“特別”になるだろう。

日本高野連、朝日新聞、毎日新聞は多くのスポーツ関係者に高校野球を“解放”するときがきたのではないだろうか。

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