「夏の甲子園」が中止になった。このタイミングで中止を決めてよかったのだろうか。中止を聞いた高校球児たちはどう受け止めたのだろうか。スポーツライターの酒井政人氏は「主催者は例年通りの開催は困難でも、高校3年生のためほかにできることがないか模索するべきだ。高校野球のもつ巨大な価値を、関係者が正確に理解する必要がある」という——。
コロナウイルスパンデミックの非常事態の下、青で照らされている、阪神甲子園球場(2020年5月4日)
写真=iStock.com/SakuraIkkyo
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「春の甲子園」「夏の甲子園」同学年で両方中止は史上初

5月20日、新型コロナウイルス感染拡大防止のため、日本高校野球連盟と朝日新聞社は8月10日に開幕予定だった第102回全国高校野球選手権大会の「中止」を決定した。

すでに多くの報道があるが、筆者も知り合いの高校野球部A監督に話を聞いた。そのリアルな声をお伝えするとともに、高校スポーツの在り方について考えてみたい。

A監督によると5月15日のスポーツ報知で「夏の甲子園が中止する」という記事が出たが、すぐに地元の高野連からメールで「今回の報道は事実ではないので、動揺しないように」という連絡があったという。

「単なる誤報なのか、それとも事実の話が漏れて高野連が火消しに回ったのか。どちらなのかなと不安な気持ちで数日間を過ごしました。その後、20日にメールで大会中止の連絡があったんです。それを受けて、生徒たちに一斉メールで知らせました」

休校になっているため、A監督は部員たちの顔を直に見ることなく、悲痛の連絡を送ったことになる。そのうち最後の夏となる3年生から4人ほどメールの返信があった。それは嘆き悲しむ内容ではなかった。「前向きに頑張ります」「これからもよろしくお願いします」。さらに監督を気遣う言葉もあったという。

球児たちは大人が下した決断を、仲間と聞くことすら許されなかった。その喪失感、絶望感を思うと、かける言葉は見当たらない。悔し涙を流した選手もいたことだろう。A監督も苦しい胸の内を話した。

「8月だったらやれそうな気はするんですけどね。ただ万が一、代表チームに感染者が出た場合はチームの大半が濃厚接触者になるわけなので、出場辞退になります。そういう可能性が考慮されたのかもしれません」

地方大会の代替大会を一部の都道府県で実施予定だが……

高校野球は地方大会も中止となったが、代替大会の実施は都道府県の高野連に委ねられている(※) 。A監督の県では開催が決まっておらず、モヤモヤした気持ちを抱えたまま、選手たちの前に立たなければいけない。

※編集部註:5月27日に高野連は、各都道府県高野連が検討している独自の大会や試合で活用してもらう実施要項と新型コロナ感染防止対策ガイドラインを発表(大会は都道府県高野連が主催、休校措置・部活動制限の枠組みの中で実施、原則として無観客試合、試合時期は8月末までに終了、参加校全員の検温や「3密」の徹底的な回避、など)。

「どうやったら夏の大会を開催できるのか。広く意見をすいあげて、検討してほしかったというのが本音です。ただ決まったことは、どうしようもありません。それよりも子どもたちのフォローをどうするのか。まずは学年ごとのオンラインミーティングをしようと思っています」

A監督が最も気にしていたのが3年生の進路だ。例年、大学野球部の主催するセレクションは夏に行われることが多い。しかし、その段階ではスポーツ推薦枠がほぼ内定しており、大学からすれば“掘り出し物”を探す場所になっているという。

「実績のある選手は2年生の秋の段階で大学から声がかかります。そこでかからなかったら、こちらから売り込んでいかないといけません。大学への進学を考えると、春季大会がなくなったことが痛いですね。あと練習試合もないので、とにかく見てもらう機会がないんです。そうなると名門校のレギュラーを、実際は見てないけど、取ってしまうという流れが強くなると思います」

A監督の学校は近年力をつけているが、まだ甲子園の出場はない。そのようなチームだと今年は強豪大学にスポーツ推薦で進学するのは難しい状況になるかもしれない。3年生にとっては厳しい戦いが続くことになる。