「中学卒業後・高校入学前」にデザイン会社を起業した秋田の社長

“10代で起業”の芽は、都市部だけでなく地方でも育っている。

秋田県湯沢市。駅前の商店街は、平日の昼間でも軒並みシャッターが下り、閑散としている。高2の篠原龍太郎君は、苦境にあえぐ地元を活性化したいと、中学卒業後にデザイン会社「Oligami」を立ち上げた。

「仕事のメインは地元の飲食店、町おこしイベントなどのCM動画やSNS用の映像作成です」

高2の篠原龍太郎君
高2の篠原龍太郎君(撮影=干川 修)

起業のきっかけは、街の一角にあるアパレルショップMARBLEの店長との出会いだった。中学校の生徒会副会長として、学園祭で使うタオルとTシャツのプリントを頼みにやってきた篠原君のことを、店長の藤田一平さんは次のように回想する。

「こんな田舎で『これで作ってほしい』と自作のデザインを持ち込んできたのでびっくりして。そしてもっと驚いたのは、“イラストレーター”というプロ向けの編集ソフトを使っていたこと。この子は普通じゃないなと思いました」

能力を見抜いた店長は篠原君に、店内での作業スペースを提供し、自らが関わっている地域おこしやダンスイベントのチラシ作成、PR動画などを依頼するようになった。

「映像がお金に変わり、それで新しいカメラやパソコンが買えるので、楽しく取り組んでいます」

実は篠原君は、小学生時代はYouTuberとしても活躍していた。

「小3のときに、家のパソコンでYouTubeを見るようになりました。でも僕は他人と同じが嫌なんです。だから直感的に、動画を作る側の人になりたいって思ったんです」

「本人がやりたいということを止める権利はない」(母親)

再生数は順調に伸び、著名YouTuberが多数所属するUUUMという事務所に本社まで招かれたこともあるそうだ。こうした活動に対して、親は口出しをしなかったという。

「龍太郎が変わったことをするのは、小さいころから慣れていました。ただ、“子供がYouTubeに動画を上げるのをどう思う?”って聞かれ、その様子を隠し撮りされていて、動画にされたときは、しまったと思いましたね(笑)」(母・育子さん)

起業については、篠原君が“中学卒業後で高校入学前なら、どっちの校則も関係ないから大丈夫だよ”と親を説得したそうだ。

(右)篠原君がデザインしたTシャツやトレーナー。遠方からの注文も少なくない。(中・左)篠原君のオフィスが置かれているアパレルショップMARBLE。店長との出会いが、起業のきっかけとなった。
撮影=干川 修
(右)篠原君がデザインしたTシャツやトレーナー。遠方からの注文も少なくない。(中・左)篠原君のオフィスが置かれているアパレルショップMARBLE。店長との出会いが、起業のきっかけとなった。

「学校の勉強との両立など心配な部分もありますが、本人がやりたいということを止める権利はないと思っています。失敗は本人が受け止めればいいし、もし何かあったら親が責任を取ればいいかなと思っていました」(育子さん)

仕事ぶりは口コミで広がり、今では県外からも声が掛かる。

「中・高生での起業は、親に食べさせてもらえるという環境にいる分、リスクフリー。だからこそ、今しかできない非営利の社会事業にも積極的に取り組んでいます。クラウドファンディングで資金を100万円集めて、秋田の高校生が社会で活躍している人たちと交流できるイベントを開催したり、湯沢の魅力を体験してもらいながらプログラミングを学べるキャンプを企業と企画したり、地元の同世代をもっと盛り上げていくことに力を注ぎたいですね」