売れ残りの損失も考慮すると……?
閉店間際の寿司屋で大将と雑談しながら、「メニューの松竹梅のうち、一番儲かるのは何か」を聞いてみたことがある。「そりゃぁ~最高級グレードの松だよ」という答えを期待していたが、大将の答えは、最もグレードの低い「梅」。理由は、商品回転率とロス率だ。
松3000円で原価率を30%、梅1500円で原価率を20%と設定し、松を6人、梅を24人が注文したとしよう。
松の利益額は3000円×6人前×70%=1万2600円、梅は1500円×24人前×80%=2万8800円となる。松は商品単価の高さゆえに客層が限られ、注文点数は伸びにくい。さらに大トロやウニといった高級食材を多用するため、原価率も梅より高くなる。一方、梅は商品単価が安いため客層が広く、注文点数は伸びやすい。また、松よりもグレードの低い素材を使うため、原価率も松より低い。つまり、大将の言うように梅のほうが収益性が高いわけだ。一見、単価の高いもののほうが儲かるように思えても、寿司屋では商品の回転率が高く、原価率が低い梅こそが儲けの種となっている。
もちろん、松のほうが梅よりも単価が高い分、売れれば利益額が増える。寿司屋も大トロの入った松を売りたいだろう。が、大量に仕入れた高級食材が売れ残ってしまったら、原価率が高いがゆえに結構な損失を発生させることになってしまう。
例えば松を10人分、梅を20人分仕入れ、それぞれ半分が売れたとしよう。前例同様に原価率を松30%、梅20%とすると、松の利益額は3000円×5人前×70%=1万500円。損失額は3000円×5人前×30%=4500円、差し引きの利益額は1万500円-4500円で6000円。同様に梅の利益額は1500円×10人前×80%=1万2000円。損失額が1500円×10人前×20%=3000円。利益額は差し引き9000円だ。
つまり、売れ残りによる損失まで考慮すると、ますます原価率の低い梅が有利なのだ。だったら、原価率の高い大トロなんて、松に入れなけりゃいいじゃないか、と考えそうだが、実際に大トロを除いた松を出したら、「高いカネを払っているのに、大トロが入っていない」と顧客不満足度を高め、店の信用すら失墜しかねない。やはり単価が高い寿司は、お客の期待値も高いので、それなりのネタを揃えなければお客に満足感を与えることができないのだ。
では、梅はどうかというと、安い値段設定のため、大トロなどの高級食材が入っていなくてもお客は不満を抱きにくいし、松に比べて味が落ちるわけでもない。この大将によれば、豊漁で獲れすぎた鮮魚を低価格で仕入れることができるので、旬のものをリーズナブルな価格で食べられることも多いそうだ。
大将曰く、経営者の目で見たいい寿司職人とは、やたら単価の高い商品を握ることではない。大トロやウニなどを適度に入れながらも、あくまでも原価率が低い、すなわち利益率や商品回転率が高い大衆的なネタを中心に提供し、「売り上げと利益」をバランスよく確保できなければならないそうだ。
どうやら、大トロやウニばかりを注文することが“通”の証ではなさそうだ。一度、「大将、回転率の高いネタを握ってよ!」と言ってみてはどうだろう。喜んで握ってくれるのではないだろうか?