ベンチ入りメンバーを選ぶのに“投票”させる
上林は選手に対する評価の方法も変えた。
「全員平等にチャンスを与えるのは難しいけど、なるべく同じ条件で競わせるようにしました。練習試合のデータをしっかり取って、選手起用の根拠を示すように。最後の夏の大会は、ベンチ入りメンバーを選ぶために、選手に投票させています。全員の意見を聞いて、みんなが納得できるようにしたいからです。“納得感”が低いと、チームがうまく動かなくなる」
あいさつの徹底、道具の整理整頓。どこの野球部でも気をつけていることだが、簡単なようで難しい。
「あいさつ、言葉遣いに関しては、細かく注意しています。でも、一度にたくさんのことはできません。『ゴミを拾え』と言うと、言われたゴミ拾いだけをするようになってしまうので……。相手の気持ちを考えて行動してほしいんですけど、そのあたりはまだまだですね」
矛盾のある、辻褄の合わない指導はやめる
選手に変わることを求めた上林も、自分の指導法を見つめ直した。
「高校野球といえば、気合と根性。気持ちが大事だ、集中しろと言いますが、どの表現も非常にあいまいですよね。練習中と同様に、食べることにも、寝ることにも根性を使ったほうがいい。なんのためにバットを100回振るのか、10キロ走るのか。根性の使い方を間違えないように指導しています」
試合中、バッテリー以外の野手の守備機会は多くない。飛んできた打球をミスなく処理することと、1000本ノックに耐えること。このふたつの関連性は薄いのだが、厳しいノックに耐えれば守備力がつくと考えられてきた。
「野球の練習には矛盾したものが多くて、辻褄が合わないところが出てきます。守備の練習でも、バッティングでも、体力づくりでも。私はやたらと長距離を走らせることはしません。体を大きくするためにたくさん食べるように指導しても、長い距離を走らせすぎると痩せていきますから。成果を出すために、やるべきことを時間をかけて丁寧にやりました。時期によっては練習時間を短くして、あえて太らせる。練習のやりすぎは絶対によくない」