宣伝する時代から宣伝してもらう時代へ

「推し」が普遍的な文化でありマーケティングとして効果を上げる例としてスケールの大きな話をいろいろ挙げましたが、そうしたSNSを通じて商品の価値を高めたり拡散したりするのは、東京の大企業でもシリコンバレーのメガベンチャーでもなく、日々スマートフォンを持って暇つぶしがてらSNSを眺めているような学生、ビジネスマン、お年寄りの方々——つまりは、私たちです。

今や、SNSやAmazonでの評価を気にしない企業など存在しません。商品がユーザーに愛され、推されたために宣伝費をほぼかけず成功する企業もあれば、新商品の宣伝のために巨額の宣伝費を投じたにもかかわらず、ユーザーの悪評で鳴かず飛ばずだったという企業も数多くあります。

ユーザーの声を無視して商品を買わせるといったマーケティングは一層困難になっており、企業は顧客に「宣伝する」よりも、顧客に「宣伝してもらう」にはどうすればよいかを考える立場になりつつあります。

任天堂だけが特殊な成功例ではなくなっていく

先ほど例に挙げた任天堂は、コアなゲーマー以外の層からも人気の高い企業で、海外にも多数のファンがいます。それは、任天堂の妥協なきゲーム作りと情熱を前提にしたブランディングの結果であることは間違いありません。

しかし、何より任天堂が「Nintendo Direct」を世界同時公開することで、他社メディアに頼らない広報環境を築き、「任天堂の著作物の利用に関するガイドライン」を制定したことで、ゲーム企業として異例のスピードでユーザーがゲームを「推す」環境を整備、自社コンテンツの価値をユーザー主体で発信させたことも、大きく貢献しているでしょう。

任天堂のめざましいユーザー主体の「推し」への理解と信頼がうかがえます。そしてこのトレンドは、業界問わず、この後さらに加速していくに違いありません。

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