情報発信を第三者に委ねない

しかし、任天堂が「Nintendo Direct」を始めたのは、何もコスト削減のためだけではありません。実は任天堂は、本番組を始めるまでに新聞社やウェブメディアに発信を委ねた結果、意図的に文脈を切り取ったといえるような報道や憶測のみで語った報道が何度もなされ、それに対し自社ホームページで否定するということが続いたのです。

任天堂に限らずゲーム企業は、マスメディアが唯一の情報源という時代において、マイノリティとして大きな苦境に立たされていました。

そんな経緯から任天堂は、自ら他の圧力や解釈を回避して直接ユーザーに情報を発信できる手段として、いち早く「Nintendo Direct」という発信手段を確立したのです。それゆえ映像では、任天堂元社長である岩田氏自らが画面の前に立ち、「直接!」と声をかけることが定番になっていました。そして岩田元社長亡き現在でも、任天堂の「直接!」の精神は失われておらず、自分たちで販売・制作しているからこそ理解している作品の価値を、隅々までユーザーに届けているのです。

任天堂の例からもわかるように、マスメディアや広告代理店を通じた、一部大企業による「推し」が中心だったマーケティングは、各種ウェブサービスの発達に伴って今、少しずつ企業が自らユーザーに対して直接「推し」を進めるようになっています。

これはすなわち、報道や広報といった仕事を第三者に投げるのではなく、企業自ら進める時代が到来しているということで、一見してメディアと無関係な企業でも、いかに自分たちの製品を自ら「推す」のか、という課題は避けられなくなりつつあるのです。

「ゲーム実況」を任天堂が認めた理由

メディアではなく自らが発信することで、自社主体のマーケティングに成功した任天堂ですが、彼らは自らの手で自社製品を推す「Nintendo Direct」に加えて、ユーザーに自社の商品を「推させる」マーケティングにも成功しています。

その最たるものが、今YouTubeで最も再生数を集めやすいコンテンツの一つ、「ゲーム実況」と、任天堂ゲームを適切な形で投稿する限りにおいて、収益化までも認めた「任天堂の著作物の利用に関するガイドライン」です。

元より、YouTubeなどの動画投稿サイトやTwitchなどの動画配信サイトでは、ユーザーがゲームをプレイする様子を録画し、その動画をYouTubeなどにアップロードしたり、そのまま生放送したりする通称「ゲーム実況」「ゲーム配信」と呼ばれるコンテンツが世界的に流行しています。