月5000万円以上稼ぐスターも生まれた
特にAmazonの子会社にしてゲーム配信の大手プラットフォームTwitchでは、2015年には月150万人が生放送するのに対して、1億人の視聴者がつくというほどの熱狂ぶりで、その放送のほとんどは、ただ話しながらゲームを遊ぶだけ、という内容です。
子供の頃に、友達がゲームを遊んでいるのを隣で見ていた経験がある人は想像しやすいかもしれませんが、人がゲームを遊んでいること自体が今、コンテンツとして非常に大きな市場価値を生み出しているのです。
その中でも最も人気を集めた配信者(海外ではStreamerと呼ばれる)のNinjaは、弱冠28歳にして1400万人にフォローされ、ただゲームを遊ぶ姿を配信するだけで月50万ドル(約5400万円)を1人で稼ぐほどのトップスターとなり、2019年のTIME誌「世界で最も影響力のある100人」にも選ばれました。今、ユーザーが自ら遊び、配信し、それを第三者が視聴するという「ゲーム実況」によって、ゲームの市場、そして文化は大きく変化しているのです。
とはいえ、「ゲーム実況」は元々企業が著作権を持つゲームを無断で用いて作った動画であり、ここから収益を得ることは本来グレーな文化です。そこへ来て任天堂はいち早く、自社の収益よりも「ゲーム実況」から広がるブランドに着目し、収益化まで認めたのですから、本当に先進的な企業といわざるを得ません。
企業と顧客の双方向的マーケティング
任天堂の法務部は数々の訴訟に勝利した実績があり、権利関係もかなり厳しい企業だったのですが、「ただ任天堂のゲームを楽しく遊び、その魅力を視聴者と共有しているだけの文化」、すなわち魅力的なゲームを広く推す文化がもたらす長期的なブランドイメージを考慮すれば、ゲーム実況は企業にとってデメリットよりメリットが大きいと考え、収益化を認めたのではないでしょうか。
その結果、YouTube、Twitchなどの主流な動画配信サイトでは、何百万というフォロワーがいるクリエイターによって日夜、任天堂のゲームを楽しそうに遊ぶ姿が配信され、これらの配信をきっかけにゲームを買う人も少なくありません。
かつて製品を売るためには、マスコミや代理店による一方的で大規模な広報が主流でした。それが今、任天堂の「Nintendo Direct」や「ゲーム実況」などに代表されるように、さまざまなウェブサービスを使って企業が自らSNSアカウントを作って発信したり、さらにはユーザーが自ら気に入ったものを評価する「推し」を後押ししたりといった、企業と顧客の双方向的なマーケティングが増えています。
今や、有名タレントが起用されたCMを何本作ろうと、大新聞の全面広告を出そうと、それだけでは、スマートフォンを利用する、特に若い層に知ってもらうことは難しいのです。
スマートフォンやインターネットを中心とする新しい時代には、ユーザーや企業が自ら多角的に発信する、新しいマーケティングを考える必要があります。では、こうした著しい変化が起きる社会で、我々には何ができるのでしょうか?