100人を超える現職裁判官とOBに取材して浮き彫りに

行政府と立法府を監視するはずの裁判所が、「国の統治機関の一部として協調する」。その最高裁方針と異なる判決を出せば「見せしめ人事」。それを恐れて良心に従った判断を下せない裁判官は少なくない。刑事裁判で「無罪」の心証を得ても、控訴審で検察に逆転されれば、自身の人事に影響するため、「とりあえず有罪に」との心理にとらわれることも。司法行政を担う一部エリートがすべてを統制する実態を、のべ100人を超える現職裁判官とOBに取材して浮き彫りにした。

岩瀬達哉『裁判官も人である 良心と組織の狭間で』(講談社)
岩瀬達哉『裁判官も人である 良心と組織の狭間で』(講談社)

裁判官の世界に目が向いたのは、40年に及ぶジャーナリスト人生で自ら裁判の当事者になってきたからだ。新聞社出身の著名ジャーナリストや直木賞作家を相手に名誉毀損を長く争った。裁判官が原告側と被告側を比べ、第一印象で勝ち負けを頭にインプットするため、「いくら法廷で真実を語っても裁判官の心を染めることはできない」と綴るのは自身の経験による。

「批判を届けることで、裁判官自身に裁判所のあり方を変えていってほしい」。そんな思いを抱きつつ書き上げることができたのは、取材で出会った「裁判所をあるべき姿に戻さなければいけない」と憂慮するOBたちの無念の思いが「憑依」したからだという。

「その中には、超エリートだったのにあるべき論を唱えて主流から外された人もいました。彼らが私との議論にとことんつきあってくれた。本書の背骨となって支えてくれたのは心ある人々の信念です」

相手が心を開いてくれるまで何度でも通う。不器用さがまた、出会うべき人との遭遇をもたらし、力作を生んだ。

岩瀬達哉
1955年、和歌山県生まれ。ジャーナリスト。2004年、『年金大崩壊』『年金の悲劇』で講談社ノンフィクション賞を受賞。『われ万死に値す ドキュメント竹下登』『パナソニック人事抗争史』など著書多数。
(撮影=石橋素幸)
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