新型コロナウイルスの報道で思うこと

【三宅】現在、世界中が新型コロナウイルスの話題でもちきり(取材時は2020年2月)ですが、モーリーさんはこの状況をどう見られていますか?

【ロバートソン】各国での報道のされ方や国民の反応をみると、今回はとくに政治レイヤーと科学レイヤーの話が錯綜しすぎていて、余計に混乱を招いている印象を受けます。

たとえば、カンボジアでは首相みずから「こんな病気は寝ていれば治る」といったことを言いはじめて、日本をはじめ各国で寄港を拒否されたクルーズ船を南部のシアヌークビルという港町にあげ、「全員検査したが陰性だった」と発表しました。しかし、そのうちの80代のアメリカ人女性が移動先のマレーシアのクアラルンプールの空港で感染していると言われたのです。

それに対してカンボジア当局は「ちゃんとチェックしたのだからおかしい」と最初は反論するのですが、2回目のチェックをしたところで感染を認めることになります。

では、このときカンボジアの現地メディアはどう報道したかというと、実は報道できなかったのです。何を信じていいのかわからなかったので、結局3日遅れで「当局の発表に懸念の声」という見出しが出ることになりました。

【三宅】そうでしたか。

【ロバートソン】一方で、日本のマスコミは政府の発表を額面どおりに流す傾向が強い。ですから、あたかも日本だけ感染が急拡大しているように見えます。しかし、もしかするとそれは「日本が感染者をちゃんと数えていて発表しているだけ」なのかもしれません。

各メディアの“傾き”具合を知ってからアクセスする

【三宅】日頃はどのように情報を集めて、整理されるんですか?

【ロバートソン】とにかく世界中の情報源をインターネットでぐるぐる回ります。そのときに大切なことは、各媒体の「傾向」を把握しておくことです。思惑のないメディアなど絶対にないですから、その“傾き”具合を見越したうえで情報に接する。そうすることで自分の中で事象が立体的に見えてきます。

たとえば日本での報道は、今回の新型コロナの件に限らず基本的に慎重です。国民を不安にさせないように控えめな表現を選んだり、一拍遅れで取り上げたりすることが多いですね。私も出演者としてそれがわかっていますから、日本の報道をみて「やたらと慎重だな」と感じたら、アメリカの『ニューヨークタイムズ』や『ワシントンポスト』を見に行く。

彼らは自国の外で起こったニュースのときはやたらと前のめりなので、そこでバランスがとれます。逆に中東の『アルジャジーラ』は日本に関するニュースを強めに報道する傾向があるので、それも参考にすることも多いです。

【三宅】当然、英語が必須ですね。

【ロバートソン】もちろんです。インターネットは世界中につながっているのに「日本語しかできないから日本語の情報源しかアクセスしない」というのは実にもったいない話だと思います。